4話 初めての町
初めて町に入り門を通るには色々な手順があって少しゴタゴタしてしまったが、何とかなったので一安心だ。
冒険者証を見せた事で犯罪歴や諸々の確認等も飛ばせたのが楽だったから、これからは困ったらすぐ出してみるとしよう。
学生の頃は、学生証を見せて色々免除になっていたのを思い出しその時の友達とゲームで会えたら良いなと思ったりした。
私担当の門番さんは優しげなおじさんで、色々察してくれて宿や手書きの地図を始め日常で役立つことを沢山教えてくれたので助かった。
◇◇◇
「ここが門番さんの言ってた宿かな?」
貰った地図に従って暫く歩いたら教えられた宿屋に辿り着けたものの、異世界初の泊まる場所と考えると少し緊張してしまうな。
でも森を歩いてるので結構疲れたから早く休みたいしここは思い切って…
「そこのかっこいいお兄さん!もしかして"宿り木"のお客さんかな〜」
「そうだけど、よく分かったね?」
尻込みしていた私の後ろから急に話しかけてきた彼は、肩まで伸びる金髪を緩く三つ編みにしており爽やかな笑顔は女性のような可愛らしさもあって凄い美青年だ。
男だと分かる肩幅にかけられたエプロンには目の前の宿と同じマークが刺繍されていて、宿の従業員だと分かる。
「俺は占い師だから一目会ったらお見通し。なーんてお兄さんみたいな旅人好みの理由じゃなくて悪いんだけど、親父の地図を持ってたから分かったんだよ」
「親父さん…というと、君は門番さんの家族の方か。やたらと美人の妻と可愛い息子だと自慢してたけど、たしかに似てるね」
「…お兄さん鋭いね!俺達、似てないってよく言われるのに一発だ」
少し間があったから不安だったが、親父さんと似てると言うと愛想笑いから自然な笑顔に変わってるし正解だったようだ。
優しげな目元の辺りが似ていると思いつつ彼と話していたが周囲の視線を感じ始め、「…引き止めちゃってごめんね?疲れてるみたいだし中にどうぞー」と私の手を握って先導してくれた。
「お袋!新しいお客さん!」
「おお流石だねサーニャ、少し店の前に立てばすぐに新しいお客さんを連れてくるんだから!自慢の息子だよ〜」
「ちょやめろよ、もう十八で子供じゃねぇんだから…力強っ」
「はいはい、アタシから見ればずっと小さい頃の坊やと同じだけどね!ハハハ!冗談はこれくらいにして…お客さん、鍵を渡しとくよ」
「仲が宜しいんですねー素敵です。あと、鍵は確かに受け取りましたありがとうございます」
厨房らしき奥の方から出てきた大柄な女性は、私を案内してくれたサーニャ君の頭をぐりぐりと撫でながら鍵を投げて寄越した。
カッコよくて頼りになると門番さん…旦那さんが自慢していたのも頷ける男勝りな180cmを超えていそうな女将さんはとても逞しい。
「おっと料金はまだ要らないよ、ウチは空いてる時には体験日を設けていてね。新しいお客さんを掴む為に、一日無料で過ごして貰って良ければそのまま泊まって貰うんだ」
「親父が考えた作戦なんだが中々好評だから、お兄さんも安心して泊まっていてくれ」
無事に部屋鍵を受け取れたので料金を払おうとすると二人から、そう説明されたので鞄の中に硬貨を入れ直した。
「よしそれじゃあ、アタシは料理の下拵えに戻るからサーニャはお客さんを五号室まで案内しときな」
「了解。はい、お兄さんはついて来てね〜」
「分かりました」
女将さんとじゃれ合って少し疲れた様子のサーニャ君に、ついて行くと丁寧に清掃された想像以上に素敵な部屋に案内された。
「ここの部屋だよ、気に入って貰えたかな?」
「勿論です、これは一日と言わずずっとお世話になりたくなってしまいますね…」
「嬉しい事言ってくれるね!期待に添えるよう、お袋と俺で腕によりをかけた料理にするから夜は楽しみにしてくれ」
一通り宿での注意事項を話してごゆっくり〜と行ってから彼は去っていた。
さて…落ち着ける部屋も確保出来た事だし、一旦現状の整理をしよう。
この世界では家族を無くしたのと毒をおったストレスで精神がおかしくなり、忘却のスキルを使いそこから抜け出したという流れのようで持ち物が色々あるのは助かる。
何か聞かれたら答える事になるので、見つけた日記帳に必要な事をメモしておいた。
蛇足だが、門番さんに日記に書かれていた毒を浴びせてきた魔物の特徴を話して質問してみたら感覚や記憶に作用し幻覚を見てしまう精神毒のような攻撃をしてくるやつだったらしい。
ご都合主義的な展開で、HP諸々が回復しているのかと思っていたがその説明を聞いて私みたいな運が悪い人だと酷い目に合ってそうだなと思った。
閑話休題…
フルダイブ型のゲームをただでやれるチャンスを活かしたいし、ここではやはり現実では不可能になってしまった絵を描いていきたいが画材を買うにも金が必要だ。
「稼ぐ為に手っ取り早いのは、前職を活かした仕事だが…」
私は事故が起こる前まで、美しい景色を見るのが好きで旅行会社に勤めていたがこの世界の知識が全く無い中で誰かを案内したり楽しむなんて余裕は無い。
私が選んだリアルモードは、現実の感覚や技能が直結してくるので前職の経験を活かしたいところではあったが、無い物ねだりをしても仕方がないのでここは諦めよう。
「…となると、こういう時定番らしい冒険者にでもなろうかな?ついでに、さっき軽く見たアレの確認をしようか」
そう言いつつ私が、魔法の鞄から取り出すのは武器一式として大体の有名どころが揃っている中身でも、特に異彩を放つ鞭だ。
冒険者と言えば武器として、剣を思い浮かべる人が多いだろうが私は馴染み深い武器になるものとして鞭を思い浮かべていたのであったのはとても助かった。
このような事を言うと、Mなのか?それともSか?と誤解を招いてしまってたので説明しておくと、私は両親がブリーダーで近くに育成牧場があった事から動物好きになった。
その中でも馬に慣れ親しんでいたのだが、馬の飼育では競馬の時に指示を送りコントロールする目的で訓練を通して色々な場面を通して様々な鞭が使われていた。
加虐趣味がある人や臆病過ぎる人は曲解していたが、鞭で叩くのは馬の闘争心を上げる為では無く使い手は常に細心の注意を払っている。
なので、乗馬を好んでいた私も例に漏れず鞭の扱い方には一家言がある。
取り出した鞭は黒色で、目測160cm程で調教時等に補佐として用いられる追い鞭に似た形状だった。
所謂初期装備なので、ごくシンプルな作りとデザインで装飾等も少ないが現実なら5000円以上はする物をただで手に入れられたのだから文句は言えないだろう。
「振り心地も試してみたいが、昔と違って腕がなまってる状態だと部屋の物を壊しかねないし明日試してみるとしよう」
ふと顔を上げて窓から外を見ると既に暗くなり始めており、夜の到来を感じさせたので同時に部屋の外から良い匂いがして来たのも気になり部屋を出た。
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