3話 この世界での私
不思議空間でアラディアと別れて十分、ゲームで定番のような森に飛ばされた私は…
見事に迷っていた。
見渡す限りの木、木、木…どれを見ても同じ種のようで大した手がかりも無く、少し歩いたところで同じ場所へ戻ってきてしまったような錯覚に陥っている。
動くという行為も二年間の入院生活で、麻痺した上で体格も違う為木の根に引っかかるわ葉っぱで顔を引っ掻くわ散々である。
「一旦落ち着くんだ私、初心者でもここから出られるからここに飛ばされた筈。アラディアには、少し失礼な態度を取っていたがそれはお互い様というやつだ…だから意地悪をされるなんてことはないだろう」
考えを言葉に出して少し心が落ち着いてきた私は、何をすれば良いのか順を追って思い出していく。
アラディアが始めの方に教えてくれた事によると、私達は現地の住民と差がある為にそれぞれの個性に合わせたスキルや特典があったはず…
「そうだ、スキルを使えば何か分かるかもしれないな。とはいえゲームなんてした事がないから何をすれば良いのか…ステータスオープン?自己分析、鑑定…っ!?」
【鑑定成功
イッダリーアツリー
イッダリーア付近の森に幅広く分布する生命力の高い木。温暖な気候で育ちやすい。】
辺りを見渡しながら呟いていた私の脳内に響くように情報が、流れてきたことで一瞬呆けてしまっていたがすぐに意識を戻す。
今の結果を見るに鑑定が私の貰ったスキルなのだろう、ゲームや小説で鑑定はチートとよく言われるので当たりかもしれないと思いながら自分にも試してみる。
「鑑定」
【鑑定成功
ヒカル 性別:男 種族:人(旅人) リアルモード
Lv1 進化先無し
HP:95% MP:100% SP:90% 空腹度:5%
筋力:G 防御:G 速度:G 知能:F
生命力:F 運:G 技巧:E 魔力:F
スキル…鑑定・五感強化・精神耐性・生還・躾・
守護・描画・彫刻・裁縫・生活魔法・忘却・
毒耐性
称号…旅人への祝福・天使の加護
派閥…無所属
職業…未定
信仰…未定
所持…旅装・基本武器一式・魔法の鞄・冒険者証・
使い古された日記帳・初心の魔法書】
ネーミングセンスが無いため、名前だけそのまま使ったから鑑定結果は正しいな。これで、現実の苗字まで鑑定で出ていたらプライバシーが危ぶまれるところだった…。
基本ステータスはまぁ現実の私と大差は無いと言ったところだろうからスルーだな。
スキルもこれまでの経験が、反映されているように思うが幾つかの心当たりが無い物は鑑定してみた。
【生還…HPが無くなっても精神力が続く限り生き足掻ける/危機から逃れるまで発動】
【守護…味方が居ると確率で防御力を上げる、絆によって確率変動】
【生活魔法…誰でも使える基礎魔法/洗浄・火種・追風・恵みが基本となる】
【忘却…都合の悪い事は忘れよう、そうしたらきっと楽になれる】
生還は、私が事故から生き延びて今も管を繋ぎしぶとく足掻いているのを表しているようだ。
守護は昔動物を沢山飼っていた頃に、守っていたという判定が出たのかもしれない。
生活魔法は、誰でも使えるからあるのだろう。
忘却は、何故か抽象的になっているがこれ以上は鑑定不可能な為諦めよう。
称号はよく分からないので全部鑑定だな。
【称号…スキルに分類出来ない加護や祝福・精神性が主に称号となる。世界から一方的に認められたような物なので切り替え不可。剥奪または変化する場合もある】
【旅人への祝福…旅人として天使に認められた者に思考加速・成長補正・言語理解】
【天使の加護…鑑定失敗】
称号は常時発動と分かり一安心、ゲーム初心者にスキルだのなんだのとあれもこれも考えて行動しろというのは酷なのだ。
旅人への祝福は…説明されていたプレイヤーへの措置そのまんまだな。
「問題は天使の加護か、困ったことや分からないことがあれば神殿を訪ねろとアラディアに言われてたし、天使もそれっぽいから後回しにするとして気になるのは魔法の鞄か」
これまで気づかなかったのはおかしいと自分の事ながら呆れるが、不慣れな身体に困惑して肩からかけている鞄を確認する余裕も無かった為、仕方ないと割り切ろう。
釦が幾つかあり慣れない手の大きさに違和感を抱きつつ鞄を開けると、しきりがされており見た目の十倍は広い収納となっていて色んな物が詰まっていた。
武器に魔導書と目移りしてしまうが、誘惑を断ち切りこの世界で唯一の情報源としての期待をかけて日記帳を取り出す。
見覚えが無いが、手に馴染む『ヒカル』と異世界の言葉で書かれた日記帳は古びている割に何処か惹き付けるような雰囲気があるので、そのかさついた表紙を流れるような動きで捲る。
【春の晴れの日
今日は遂に故郷を飛び出て旅に出る日だ、
世界を見て回ればどんな美しい景色が私を
待っているのだろうか?
季節の変わり目
私が旅立った後、両親が流行病に感染し亡くなったと滞在中の街へ隣人から手紙が届いた。
親の死に目にも合わず看病もしていない私を、両親は恨んでいるだろうか?
不安と後悔に苛まれ死への恐怖を感じる、今日
も上手く眠れそうにない。
雨が降りやまぬ日
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
晴天が続く夏
何も分からない、そういうことにしよう。昔のことを考えると恐怖で身体が震えるので、私は未来に思考を飛ばすことにした。
次の街なら、今度こそ、絶対に、美しい景色と元気な人々が私を待っている筈だ。
じゃないと、また悪夢を見てしまいそうだ
暫くページがちぎれたり汚れたりしており
文字が読み取れない
夏の夕暮れ
魔物に襲われてしまった…私は、突然の襲撃に何も出来ず毒を被りほうほうの体で近くにあったこの森の木々で隠れながら逃げ出してきた。
あの魔物はこの前見かけた図鑑によると神経毒が主な攻撃。
そのせいか、意識が混濁してきたのを感じる、昔のことを思い出せなくなり逃げた森でも迷ってしまっている。
ここで死んでしまうのだろうか…
毒の回復薬を持っておくべきだった
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
崖から転落してしまった、地面があったと思っていたが私の幻覚だったらしい。
骨が軋んでいる、回復薬を飲んだりかけたりしたものの外傷しか治らない。
この不安と毒はいつなくなる??
€7÷5々○〆・
あた がわれる ようにいたんでいる、ゆびがふるえにっきをかくのもままならな いきのびても きおく があるか ?にっきがやくに たつと いいか゛ 】
所々に、涙のような染みやインクが飛び散った日記帳の最後は蚯蚓が這ったような酷い文字で読むのに苦労した。
この世界で馴染めるようになってるよと、アラディアから説明を受けていたが天涯孤独の住人というのがプレイヤー側の始まりらしい。
何処からとも無く人が湧いてきたら、おかしいから世界観を守る為にこのようにしているのかもしれない…それにしても酷い扱いだが。
日記の内容に思考を戻すと、現実の人生と似通った不運な人生を送っていたこの世界の私は忘却のスキルを使って全て忘れて楽になっていたようだ。
アラディアから色々質問されてる際に、文字を書いてみる作業もあったがそれを参考にした様子の日記帳はそのまま私の筆跡で、本当に自分にあった出来事のように錯覚してしまう。
リアルモードと名乗るのは伊達ではないということだな。
日記帳の中には、地図が何枚か挟まっておりこの森のものらしき地図もあったのでそれを参考にして街へと向かえば、目的地へ到達出来そうだ。
最初から街へと飛ばして欲しい気持ちもあるが、この世界に慣らす為に必要な作業と自分を納得させる。
実際、突然道端で騒ぎ出し『異世界から来たぜ!』なんて言い始めるやつが居たら正気を疑うしそういうことなんだろう。
あまりにも、ゲーム内とは思えない程に現実味を強めてくるので現実と混同させないようにとの注意も身に染みてきている…
「ん?そろそろか…」
色々考えながら地図から街への道を予想して、暫く歩いているといつの間にか夕方になっており街明かりらしきものが目立ち始めた。
私からすればゴールであるその街明かりに、向かって少し足早に歩いていくき長めのチュートリアル?を終えた私は、体感時間で二時間程して漸く街の門に辿り着いたのだった。
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ふと思いついたネタをこのアカウントで新作として出したこと、仕事が忙しいことがあり更新は遅めですが暇潰しにでも読んで頂けたら…
もしよろしければ、新作も覗いて見て下されば幸いです。
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