第十七章(最終章):~愛の本質~

婚約式の夜が静かに続いていく中、白雪姫と王・エドワードは語り合いました。


「お父様、お母様があのようになってしまったのは、私のせいなのでしょうか?」


白雪姫の目には涙が溢れていました。


母リリアンの目によく似た、白雪姫のスミレ色の瞳には、

母への愛と哀しみが宿っていました。


エドワードは白雪姫を優しく抱き寄せ、

しばらくの間、言葉を探すように目を閉じていました。


「私はリリアンを深く愛していた。

 リリアンの美しい瞳に出会った瞬間、この世界すべてが輝いて見えたのだ。

 彼女は私の太陽だった。

 白雪姫、そなたが生まれてからも、

 私はもっと彼女をよく見てやるべきだったのかもしれない。」


白雪姫は静かに父の言葉に耳を傾けていました。


「私は、リリアンが、娘であるお前に嫉妬していることに気付かなかった。

 いや、目を逸らしていただけなのかもしれない。

 もっと彼女の心に寄り添い、彼女の愛に応えていれば、

 彼女は狂気に囚われることもなかったかもしれない。」


エドワードは白雪姫の肩をそっとなでました。


「だが、人の愛には限りがあるものではない。

 私はあなたを愛し、同時にリリアンも愛していた。

 リリアンの間違いは、愛されるためには、

 姫よりも美しくなければいけないと思った事だろう。」




「お父様。愛とは何なのですか?」


エドワードは静かに微笑み、答えました。


「愛とは、美しさや完璧さを求めるものではない。

 愛とは、その人の弱さや不完全さをも含めて、受け入れることだ。

 私は、リリアンが、その弱さに目を向けず、飲み込んでしまうのを防げなかった。

 それが私の罪だ。」


白雪姫は深くうなずきました。





エピローグ~真実を映す鏡~


リリアンの最期から数日後、城に一人の訪問者が現れました。


彼は灰色のマントをまとった初老の男でした。


「王妃様にお貸しした鏡を、戻していただきたく参りました。」


その静かな言葉に、侍女たちは戸惑いましたが、

リリアンの部屋に案内し、魔法の鏡を手渡しました。


男は鏡を受け取り、微かに微笑みました。


「これで良い。王妃様には真実を見て頂いた。」


男は鏡を手に、城の外へ向かいました。

その背中はどこか軽やかで、同時に冷たい威圧感を漂わせていました。





~城の外で~


「また、愛を忘れた人間が消えたか…。

 愛されることを重視するあまりに、愛そのものを間違える者よ。」


灰色のマントの男の言葉には、同情と軽蔑が入っていました。


男は鏡を撫でるようにしながら、また歩き始めます。


「さて、次は誰にこの鏡を渡そうか。

 人間の欲望と弱さが織りなす真実を、次は誰が見ることになるのか…」


男の姿は、風のように消えていきました。





~おしまい~




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

リリアンというひとりの女性の生き様が、あなたの心に何かを残してくれていたら幸いです。


次回作は

『ヘンゼルとグレーテル~魔女の真実~』


森の奥に暮らす“魔女”とは、本当に恐ろしい存在だったのか?

時はさかのぼり、飢饉にあえぐ時代。

誰が悪で、誰が善か。

おとぎ話の裏に隠された、もうひとつの歴史をどうか見届けてください。


また次の物語で、お会いできるのを楽しみにしています。




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白雪姫の母~リリアンの物語~ 山下ともこ @cyapel

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