第九章:~偽りの訪問者~


リリアンは決意を胸に、物売りに扮するため、準備を始めました。


城の一角に保管されていた、質素な服や日焼けしたマントを身にまとい、

大きな籠を手にすると、自室で何度も鏡に向かって口調や仕草を練習しました。


「美しい腰ひもはいかがですか?

 これを締めれば、どんな人でも、もっと美しく見えますよ。」


その言葉に冷たい笑みを浮かべながら、

リリアンはこびとたちの家へ向かうため、森の奥へと入って行きました。




~こびとたちの留守を狙う~


こびとの家が見える場所までたどり着くと、

リリアンはそっと茂みの影に身を隠しました。


こびとたちが一列に並び、仕事に出かけるのを確認すると、

彼女は籠を抱え、家の前へ向かいました。


小さな家の窓から中を覗くと、

白雪姫が歌を口ずさみながら部屋を掃除しているのが見えました。


その姿は無垢そのもので、リリアンの心を苛立たせました。


「今度こそ終わらせる。」



リリアンは扉をノックし、わざと疲れたような声で呼びかけた。

「どなたかいらっしゃいませんか?美しい腰ひもをお売りしています。」


扉を開けた白雪姫は、にこやかにリリアンを迎え入れました。

「まあ、お疲れでしょう。どうぞ中へお入りください。」


リリアンは籠を前に差し出し、優しい声で語りかけました。


「美しいお嬢さん、あなたにはこの腰ひもがぴったりです。

 この腰ひもを締めれば、あなたの美しさは、さらに際立つことでしょう。」


白雪姫は物売りに化けたリリアンの言葉を信じ込み、

その腰ひもを買うことにしました。


「本当?それは素敵だわ。では、それをいただきます。」


リリアンは微笑みを浮かべ、手にした腰ひもを見せながら言いました。


「せっかくですから、私があなたの腰に綺麗に巻いて差し上げましょう。」





~恐ろしい計画の実行~


白雪姫は素直にうなずき、

腰ひもを結んでもらうよう、リリアンに背を向けました。


その瞬間、リリアンの目に冷たい光が宿りました。


「これであなたは、さらに美しくなりますよ。」


リリアンは白雪姫の腰にひもを巻きつけ、徐々に締め上げて行きました。


「少し…きついですわ。」


白雪姫はそう訴えましたが、リリアンはさらに力を込めて腰ひもを引きました。


「もっと!もっと!美しくなるためには、これくらい必要ですよ。」




やがて、白雪姫は苦しそうに息を切らし、その場に倒れこみました。






~狂気の勝利宣言~


「やったわ!ついに私が世界で一番美しくなるのよ!」


リリアンは小さな家の中で勝ち誇ったように笑いました。


その目には、もはや良心の影すらなく、

嫉妬と憎悪に満ちた狂気だけが宿っていました。


リリアンは扉を開け、振り返ることなくこびとたちの家を後にしました。



その後ろ姿は、冷たく、暗い影を森に落としていました。



続く~第十章へ~





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