第七章:~涙と良心~
日が落ち催しの終わりの時間が近づいて来ると
「姫が居ない!」
と城内は大騒ぎとなりました。
王は血走った目で指示を飛ばし、城中を駆け回りました。
「姫は小さいから、隙間や家具の陰も全て調べるのだ!
どこかに入り込み、出られなくなっているかもしれない!」
王の声は必死さと焦りに満ちていました。
~王妃の静かな台所訪問~
そんな騒ぎの中、リリアンはひっそりと動いていました。
自室に戻りマントを脱ぎ、普段の優雅な姿を飾って台所へと足を運びました。
「王妃様、何か御用ですか?」
リリアンは微笑みながら、狩人から受け取った袋を差し出し言いました。
「少しお腹が空きました。この肉で何か美味しい料理を作ってください。」
料理人は中身を考えることなく袋を受け取り、王妃の為に腕を振るいました。
~涙の肉料理~
ほどなくして、美しく盛り付けられた肉料理がリリアンの前に運ばれました。
「これで…やっと私に安らぎが届くのだわ。」
リリアンは皿の前で深く息を吐き、フォークを手に取りました。
少し震える手で料理を口に運び、一口、また一口と味わいました。
しかし、気がつくと彼女の頬を一筋の涙が流れました。
その涙は静かに流れ落ち、皿の端に小さなしずくを作りました。
そして涙は止まる事無く、流れ続けたのです。
~最後の良心~
「なぜ…涙が止まらないの?」
リリアンは震える手でフォークを置き、目の前の皿を呆然と見つめました。
頬を伝う涙が皿に滴り落ちる音だけが静寂の中に響きます。
心の中で湧き上がる声は、彼女を苛むように責め立てました。
「お前は母親として、最もしてはいけないことをしてしまった。」
「いや、私は間違っていない…姫が私を苦しめたのだ。」
自分の行為を正当化しようとする言葉が浮かぶたびに、
反対に湧き上がる罪悪感がそれを打ち消していきます。
「なぜ私はあの子を憎らしいと思ってしまったの?
私は母なのに…。母親が自分の娘にこんなことをして、許されるはずがない!」
リリアンは涙を拭おうと手を伸ばしましたが、その手もまた震えていました。
彼女の純粋な瞳、信じ切った笑顔が思い出されるたび、
リリアンの胸を罪悪感が締め付けました。
「お母様、大好きです」
幼い白雪姫が、かつて無邪気に告げた言葉が、心の中で響き渡ります。
「私はどうして、あの愛らしい娘を亡き者にしようと思ってしまったの?」
リリアンは顔を覆いながら声を上げました。
「いやだ…そんなこと思いたくない。姫を愛しているはずなのに…。
でも、あの子がいると私は…。」
彼女の中に残っていた最後の良心が、涙となって溢れ続けました。
心の闇と母としての愛が激しくぶつかり合い、リリアンの心は乱れ狂っていました。
続く~第八章へ~
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