第三章:~白雪姫・12歳の誕生日の前日~
白雪姫の12歳の誕生日が近づいてきた冬の日、
城はお祝いの準備で賑わいを見せていました。
厨房では豪華な料理が用意され、
侍女たちは色とりどりの装飾を施し、
王自らが用意した沢山の贈り物も運び入れられていました。
そんな中でも王妃リリアンは、自室に籠り続けていました。
窓の外から漏れ聞こえる騒音な声や笑い声を耳にするたび、
心が苦しくなるのを抑えられませんでした。
ここ数年、王妃は毎日を自室に籠り、過ごしていました。
窓の外に姫の姿がチラとでも見えるとカーテンを閉め、
姫と王や城の人々との美しく朗らかな会話や笑い声が聞こえて来ると、
心が苦しくなり、ベッドにもぐりこみ耳を塞いでいました。
白雪姫の姿を一目見るだけで、胸の奥が押し潰されるような感情。
それは愛であり、嫉妬であり、そして一番は、自分への嫌悪感だったのです。
「明日も、みんなが姫の美しさだけを称えるのでしょう…」
リリアンは鬱々とした気持ちで、ベッドに横たわっていました。
カーテンを閉め切った部屋の中で、リリアンは深い息を吐きました。
「なぜ、こんなにも苦しいの?
私は娘を愛している…愛しているのに、何故こんな気持ちになるの!」
リリアンは自分自身を責め続け、目を閉じました。
~不思議な旅人の訪問~
その夜遅く、城に一人の旅人が訪ねてきました。
彼は王宮の侍女たちに、自らの正体を明かさぬまま、王妃に謁見を求めました。
リリアンは侍女に促され訪問者を出迎えました。
そこには長い灰色のマントを着た、
不思議な雰囲気を持つ初老の男が立っていました。
「美しい王妃様、お心がおかしなご様子ですね。」
旅人の言葉に驚いたリリアンは、顔をしかめながら答えました。
「ええ・・・なんだか・・・心が晴れないのです。」
男は静かに微笑むと、リリアンの前に小さな鏡を差し出しました。
その鏡は銀で縁取られ、表面は奇妙に円い弧を描いていました。
「これは真実を告げる魔法の鏡です。王妃様、これをお持ちください。
これは問いかけた言葉に真実を返します。
きっと、あなたのお心を癒す物となるでしょう。」
リリアンは戸惑いながらも、鏡を受け取りました。
魔法の鏡の重みと冷たさは、心地よく感じられる物でした。
男は魔法の鏡を渡すと、小さくニヤリと笑い、その場を立ち去るのでした。
~魔法の鏡との対話~
自室に戻り、一人になったリリアンは、手にした鏡をじっと見つめました。
その美しい銀色の縁取りには、繊細な花模様が刻まれていました。
「本当に…この鏡は私の助けになるのかしら?」
真実を告げる鏡とは、本当なの?
半信半疑のまま、リリアンは鏡に向かって問いかけました。
「世界で一番美しいのは誰?」と。
魔法の鏡の表面が少し揺らいだように見えたのち
「王妃様。それは王妃様」
と、柔らかで響き渡るような声が返ってきました。
その答えを聞いた瞬間、
リリアンの胸の奥に溜まっていた黒い霧が、
サーっと晴れるような感覚に包まれました。
「私…まだ美しいのね。」
リリアンはゆっくりと微笑み、
久しぶりに心が満ち足りた気持ちになるのでした。
続く~第四章へ~
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