第二章:~揺れる王妃の心~

白雪姫は王宮の中で、まるで光のように育っていました。


雪のように白い肌と輝く瞳、柔らかな笑顔で

人々の心を一瞬にして掴むその様子は、正に天使と呼ぶのにふさわしいものでした。


彼女が笑えば周りも笑顔になり、

彼女が歩けばその道には花が咲くかのように感じられました。


白雪姫が生まれる前、毎日毎晩、リリアンを称賛していた王・エドワードも、

娘が成長するにつれ、自然とその関心を白雪姫に向けるようになりました。


「見てごらん、リリアン。この小さな手。こんなに柔らかいなんて。」


「白雪姫の笑顔は、まるで太陽のように温かいな。」


王はリリアンと二人で過ごしている時も、白雪姫の話ばかりするようになりました。


リリアンも最初の頃こそ、娘の成長を共に喜んでいましたが、

次第に胸の奥に奇妙な感情が芽生えるのを感じました。




~私は…何を考えているのでしょう?~


白雪姫が3歳に成った頃、小さな白雪姫の手を引いて、

城内を歩いていたリリアンは、すれ違う人々の目が、

自分ではなく、娘にだけ向けられていることに気づきました。


執事も侍女も庭師も、口々に姫の美しさや愛らしさを褒めたたえているのです。


かつて自分が受けていた、称賛と羨望の目。


それらすべてが、リリアンを素通りし、娘にだけ注がれている。


リリアンの胸の奥から、もやもやとした感情が沸き上がってきました。

「いけない、いけない。

 私は母親なのだから、娘が愛されることを喜ぶべきなのだわ。」


何度も何度も、そう自分に言い聞かせました。


ですが、もやもやとした感情は膨らみ続けるばかりでした。





~こんな気持ちのまま、娘の側にいるなんて、できない~


リリアンは少しの間、姫と距離を置こうと考えました。


そうすることで、このもやもやした嫌な気持ちが

落ち着いてくるだろうと考えたのです。


リリアンは王に

「体調がすぐれないのです…」

と告げ、一人、自室に籠りたいと申し出ました。


そんなリリアンの様子に王・エドワードは

「リリアンは最近元気が無かったからね。

 分かった。自室でゆっくり過ごしなさい。」

と、リリアンが一人で過ごす事を許しました。


王は、ここ数年で、あまりにも環境の変わったリリアンの人生を思い、

好きにさせたほうが良いだろうと考えたのです。


また、王には愛しい娘・白雪姫が出来たので、

リリアンが居なくても寂しいとは感じなくなっていました。


王は母親に自由に会えなくなった白雪姫を不憫に思い、

ますます白雪姫を愛しました。


そして、かつてリリアンを称賛していたように、

毎日毎晩、白雪姫の美しさと愛らしさを称賛しました。


一人きりの部屋の中で、リリアンは鏡の前に立ち、自分の姿を見つめました。


かつて、誰もが美しいと讃えたその顔は、今も変わらず美しく見えました。


そのはずなのに、鏡の中の自分は、かつての自信が揺らいでいるのを感じました。


「私は何を考えているの?この気持ちは何?…。

 このままでは、私は壊れてしまう…」


リリアンの心には、

娘への愛と、生まれて初めて感じる他者への嫉妬、

そして自分への嫌悪が渦巻き、

出口の見えない闇が広がっていたのです。


続く~第三章へ~

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