第5話「バレエを観たんだ」
「そういえば…」
と、ヒャクは一年前に街の劇場でバレエを観たのを鮮やかに思い出しました。
コリのお兄さんが街で働いていて、遊びに来いよと誘われたのです。
一帳羅のジャケットを来てめかし込みました。
何もかもが珍しかったのです。
3人で街をあちこち見て回っていましたが、ふと劇場のポスターに目がいきました。
『白鳥の湖』のポスターでした。
「…これ、観てみたいな」
だが、コリは
「高尚過ぎて、お前には合わないよ」
と言うのです。
「一度誘われて観たけど退屈だったよ」
とコリの兄。しかしヒャクは譲りません。
「でも…観てみたい」
「そうか。じゃ、今夜のディナーは我々2人だけで行くので良いかい?」
「ええ。すみません」
チケットはとても高かったのです。
だから2階席にしました。
着飾った紳士淑女達が続々入って来ました。
ヒャクは場違いのような気がしましたが、前奏が終わって幕が開くと、自然に舞台に惹きつけられました。
森の中、たくさんの白鳥が踊っています。
なんて綺麗なんでしょう!
どうやら白鳥と王子の恋物語らしい。
あの黒鳥はライバル?羽の長い奴は悪魔かな。
ヒャクは目を凝らしましたが、遠すぎて良く見えません。
身を乗り出すようにしていると、
「どうぞ」
隣の夫人から何か差し出されました。
それはオペラグラスでした。
ありがたくちょっと観て、返そうとするも、
「いいわよ。使って下さいな。私はもう何回も観ているから」
「ありがとうございます」
終盤を迎え、主役の白鳥が中央でクルクル回り出しました。
1 回、2回…10回…20回…
もう数えられなくなりました。
フィニッシュと共に
「ブラボー!」
声が飛びました。拍手喝采。
ヒャクも手が痛くなるほど拍手をしました。
すごいな、とても人間技とは思えない。
初めて観るバレエに感動するヒャクでした。
幕が下がり、
「ありがとうございました」
ヒャクはオペラグラスに、ポケットに入れていた乾燥させたラベンダーの花を添えて返しました。
「まあ、綺麗ね。ありがとう」
白髪を髷に結った夫人は目尻にシワを寄せ、花のように笑いました。
(第6話に続きます)
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