第25話 ご飯

 だが男はまだ名乗ろうとしない。私はさらに言った。


「隠さないでください。そうだと思ってこんなことをしたのです」


 それを聞いてカスケさんは「はあっ」と息を吐いた。


「ばれていたようですね。そうです。私がカスケです」

「やはりそうだったのですか」

「ええ。コメ作りは並大抵にはいかない。そもそも作り方がほかの作物と違うのです。それになじみのないコメをここの人たちはあまり食べてくれなかった・・・。そんなことで栽培法を教えても断念する方が多かったのです。だから今は私は自分のためだけにコメを作っています」


 カスケさんはコメを広めるのをすでに断念したようだ。この国では無理だと・・・。だが引きさがるわけにはいかない。


「お願いです。私に力を貸してください。コメの栽培法を教えてください!」


 私は懸命に頼んだ。カスケさんはしばらく考えた後、言ってくれた。


「わかりました。これらの料理、やはりコメに合わせたい。あなたたちにコメの栽培法を教えましょう。種もお譲りしましょう」

「ありがとうございます」

「ただしお約束してください。決して投げ出さず、粘り強く取り組むことを」

「それはもちろんです。よろしくお願いします」


 こうしてコメ作りにカスケさんが協力してくれることになった。



 次の日、コロ牧場までカスケさんが来てくれた。まずはコメ作りをする場所である。


「コメを作る畑を田と言います。水をためるため、用水路で水を引いてくる必要があります」


 近くに小川がある。そこから水を引いてくることになる。大掛かりだが、魔法剣士になれば話は別だ。その力で水路を掘っていく。後はキキたちが固めてならしていくだけだ。


「このようにするんですよ」


 カスケさんが鍬で田の周りの畔を作っていく。それで田に水が張れるようになる。何日も作業しているうちに田が出来上がった。

 後は用意したコメの苗を植えていくだけだ。これがまた重労働だ。丁寧に一つ一つ等間隔で植えていく。


「水の調整と肥料やり、それに草むしりと・・・」


 やることは山ほどある。幸いキキたちがいてくれるので何とかなるだろう。カスケさんの指導とキキたちの頑張りでコメ作りは順調に進んだ。

 成長を早める奥の手を使うので、カスケさんが驚くほどすぐに大きくなり、穂が出てきて、やがて重さで頭が垂れてきた。


「いよいよ収穫です」


 鎌で刈り取っていく。これも重労働だ。みんなで力を合わせてやっていく。そしてしばらく田で干した後、脱穀して籾摺り、精米してコメとなっていく。これは手動の機械をカスケさんから借りた。うまくできている。まるで魔法のようだ。

 精米したコメは白くて透明感があり、輝いているように見えた。


(どんな味がするんだろう? 食べてみたい!)


 早速、みんなを集めて試食することにした。炊き方もコツがいるらしい。これもカスケさんが教えてくれる。


「さあ、炊いていきますよ」


 カスケさんが鍋にコメを入れ、慎重に水を入れる。


「このコメの量なら水はこれくらい。この水加減が難しいのですよ」


 そして重い蓋をしてかまどで火にかける。細い竹の筒で吹いて強火にする。中でぐつぐつと煮えているようで蓋の隙間から湯気が漏れる。しばらくして薪を崩して弱火で少し炊いて火を消す。


「できましたか?」

「いえ、まだです。このまま蒸らします」


 カスケさんは蓋を取ろうとしない。じっと待っている。私は中の様子が気になるが言われた通りじっと待つ。


「さあ、もういいでしょう」


 カスケさんがやっと蓋を取った。すると湯気がふわっと出た後に、鍋にふっくらしたコメが見えた。あたりに甘いにおいが広がる。


「さあ、これがご飯です。早速食べましょう」


 カスケさんがみんなにご飯をよそってくれる。初めて見るご飯にみんな興味深そうに眺めてにおいをかいでいる。


「さあ、いただきましょう」


 私はスプーンですくって口に入れてみた。ねっとりした触感で噛んでみると口いっぱいにほんのりした甘さがひろがる。


「おいしい!」


 パンとはまるで違うものだった。ほっこりした温かさが幸せにしてくれる。だがご飯の真価はこれからだ。ソワレが料理を用意してくれていた。野菜の煮物や甘辛い小魚など・・・。これと一緒に食べてみる。


「これは合う。すばらしい。いくらでも食べられる!」


 パンでは合わなかったものがご飯にはマッチする。ソワレが好んで作る料理はこのご飯の方が合いそうだ。

 みんなも同じ気持ちなのだろう。料理とともにご飯をどんどん口に運んでいく。


「いかがですか?」

「おいしかったわ。ありがとう。カスケさん」


 カスケさんはうれしそうに微笑んでいた。彼はコメのおいしさを伝えられてうれしかったようだ。


「さあ、もうひとつ楽しみがあるのです。あまり上品ではありませんが・・・」


 カスケさんは鍋底の茶色い部分をこすげとって椀に入れた。


「焦げた部分?」

「ええ、おこげというのです。試してください」


 私はそれを口に入れた。香ばしさが口いっぱいに広がる。


「これもおいしいわ」

「このおこげも楽しみなんです」


 ご飯にはいろんな楽しみ方があるようだ。それに・・・


「カスケさん。何で食べているのですか?」


 カスケさんは2本の棒で器用にご飯を食べている。


「これは箸というものです。ご飯を食べるのには便利ですよ。料理もつまめますし」


 確かに使いではいいようだ。スプーンやフォークでは食べにくいものもある。


「私もこれを練習してみます」

「それはいいですね。簡単に木から作れますから。皆さんの分も作りましょう」

「これでもっとご飯が食べられますね」


 私たちはご飯の食事を楽しんだ。これでこの牧場に楽しみが増えた。

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