第26話 小麦不足

 牧場の生活は軌道に乗っていた。牛や羊の牧畜は順調だし、鶏も卵をたくさん産む。畑からは多くの作物が取れ、田からはコメも収穫できるようになった。キキたちが来てくれたおかげで人手にも余裕ができた。


 だがこの年、とんでもないことが起きた。この国の小麦に謎の病気が広がったのだ。小麦が次々枯れ、小麦畑が壊滅した村もある。それはこのハルタ村も例外ではなかった。コロ牧場の小麦も大きな被害を受けた。キキは嘆息交じりに生き残ったわずかな小麦を収穫した。


「これではどうしようもないわね」

「はい。でも小麦はいくらか備蓄がありますから何とかなるでしょう」

「小麦の病気は収まるかしら?」

「まあ、多分・・・。今年のおかしな気候によるものだと思いますが」


 今年はひどく暑かった。それで病気が広がったと思われていた。1年くらいなら村では備蓄があるからそんなに困らないだろう。だが町や王都は違う。小麦の奪い合いで価格が高騰しているようだ。

 それはたまに王都の様子を見てくるスピリットからもたらされた。


【王都は大変です。小麦が少なくなって・・・。その値段も上がってそこで暮らす人たちには手に入りにくくなっています】

「どうしているの?」

【不満が高まって暴動でも起こりそうな雰囲気です】

「何か手を打っていないの?」

【周辺の村にある備蓄の小麦を王都に送ってはいますが、届いてないようなのです】

「えっ! どうして!」


 小麦が届かねば人々は大いに困るだろう。小麦から作るパンは主食なのだ。


【誰かが運んでいる小麦の荷馬車を襲っているようです】


 それを聞いて私はピンときた。小麦不足にして値段をつり上げようとしている不埒な者がいる。そいつらの仕業に違いないと・・・。


「スピリットは小麦の荷馬車のことを調べて。今度はどこから運ばれてくるかを」

【わかりました】


 スピリットは飛び出して行った。とにかく王都に運ばれる小麦を守らねば・・・。



 しばらくしてスピリットが戻って来た。


【時間がかかってしまってすいません。今回はランス村から運ばれてくるようです。荷馬車が襲われる事件が頻発しているので機密扱いになっていて調べるのに苦労しました】

「ありがとう! じゃあ、行くわね!」


 私は魔法剣士に変身するとチャオを呼び出した。


「チャオ! 悪者をやっつけに行くわよ!」

【久しぶりですからワクワクしますよ!】


 チャオも天馬の姿になった。私はまたがって手綱を引いた。


「ランス村へ!」


 目立つから空は飛んでいかない。翼は収容したまま道を疾走していく。リズミカルな蹄の音が辺りをこだまする。

 すると途中で悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃあ! 助けてくれ!」


 誰かが襲われているようだ。


「チャオ! 急いで!」


 私たちは急いでその方に向かう。この時とばかりに天馬は翼を広げて空を飛んでいった。すると見えてきた。荷馬車を襲う盗賊の群れが・・・すでに取り囲まれてしまっている。数名の役人が剣を向けるが大勢に無勢というところだ。勝ち目はない。


「やめなさい!」


 私は大きい声を出して、天馬をそのそばに着地させた。盗賊たちは驚いて荷馬車を襲うのをやめてこちらを見た。盗賊たちは空から現れた者に戸惑いながらも、声を上げた


「貴様は何者だ!」


 それには答えてやらねばならない。物語の正義の味方のルールだ。以前に名乗った言葉を思い出してみる。


「愛のために戦う一輪の花。魔法剣士シンデレラ!」


 まだ恥ずかしさは残る。だがそんなことよりも荷馬車を守らねばならない。今までこの姿で牧場や畑仕事をしてきたが、やはり戦いに向いているのは確かだ。

 それに対して盗賊の頭が大声をあげる。

 

「邪魔をすれば命はないぞ! そこの頭のおかしな奴め!」


 確かに仮面をして丈の短いドレスを着て、盗賊に一人で立ち向かう者がいたらそう思うかもしれない。だが私はこんな奴らには負けない。ここは実力で思い知らせねばならない。私は腰の短剣を抜いた。するとそれは細い長剣となった。


「うおっ!」


 これだけで盗賊たちは驚く。それならと私は早速、近くの盗賊に斬りかかる。そのスピードに避けることはできない。斬られた盗賊は剣の魔法によりショックを受けて気絶してその場に倒れ込む。


「お、おのれ!」


 盗賊たちは少しビビりながらも剣を振り上げて向かってくる。だが所詮は力任せの無茶苦茶な剣。魔法剣士の敵ではない。私が剣を振り回すたびに盗賊が次々に倒れていく。


「どう? まだやるというの?」


 私は脅しをかけた。すると盗賊たちは後ずさりをしながら、


「覚えていやがれ!」


 と叫ぶとそのまま逃げて行った。


「ふうっ」


 私は息を吐いて剣をしまった。荷馬車を見ると幸いにも無事なようだ。これで王都まで運べるだろう。


「もう大丈夫よ。さあ、早く王都へ」

「すまない。恩に着る!」


 役人は私に頭を下げると、人夫に命じて荷馬車を走らせて行った。これで王都に少しは小麦が届けられるはずだ。

 だが盗賊団はまだいる。やつらがまた小麦を載せた荷馬車を襲うだろう。この事件の黒幕を探さねばならないが・・・


(値を吊り上げようとしている小麦商人か、それとも小麦不足を煽り立てる者たちか・・・)


 疑う者は多い。逃げた盗賊たちをスピリットが尾行しているはずだ。すぐにそれがわかるかもしれない。


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