第24話 三顧の礼
私はファンタに乗ってヤパン村に行ってみた。走らせれば2時間ほどで着く。小麦や野菜などが植えられた広大な畑は見慣れているが、それとは違う奇妙な畑があった。畑に水が貯められて、穀物の様な苗が等間隔で植えられている。
(これが話に聞くコメというものか・・・)
確かにこれなら栽培法をよく聞かなければ作物は実らないだろう。コメの栽培は難しいのかもしれない。だがここでできるのなら、うちの畑でも作りたいと思った。
その村の人に聞いてカスケという人の家に行ってみた。そこも変わっていた。屋根は枯草のようなものが積み重なっている。あれで雨が防げるのだろうか・・・そんな疑問がわいた。それはともかくカスケさんに会わねばならない。
「すいません。カスケさんはいらっしゃいますか?」
すると一人の男が出てきた。初老という感じではない。まだ若い男だ。
「なんでしょうか?」
「私はハルタ村で牧場をしているアメリア・デザートと申します。カスケさんにお会いしたいのですが・・・」
「残念ながら旦那様はいらっしゃいません。王都の方かと・・・」
「いつ、お戻りになりますか?」
「それは私にはわかりません。明日か、3日後か、それとも1か月後か・・・」
それではここで待つわけにはいかない。今回はあきらめて帰ることにした。
「また参ります。これは私のところの食堂で作っている卵焼きパンです。よろしければどうぞ。カスケさんにはよろしくお伝えください」
私は卵焼きパンを置いて帰って来た。次は会えるだろうと・・・。
だが1週間後にヤパン村に出かけたがまた留守だった。その後も何回も出かけたがやはり留守で会うことができなかった。さすがにそうなると向こうが会う気がなくて居留守を続けているように思えた。
こんな時は小鳥のスピリットに頼むしかない。私は彼女に頼んだ。
「ヤパン村にカスケという人がいるの。私に会ってくれないわけが知りたいの。頼むわね」
スピリットはわかったというふうに首を縦に振って羽ばたいていった。彼女なら家の中まで入って行けるから何とかなるだろう。コメの栽培よりも半分意地になっていた。
しばらくしてスピリットは帰って来た。リュバンから動物と話せる能力をもらったからスピリットとも意思疎通できる。
【カスケは家にいましたよ。でも会う気はないようです】
「どうして?」
【言っていましたよ。貴族の令嬢のお遊びに付き合う気はないって】
多分、カスケさんは誤解しているのだろう。道楽や一時の興味でしかないと・・・。
【お嬢様の姿を外から見ていたようです】
そういえば家の外で畑仕事をしていた初老の男がいた。私が行くたびにその男を見る。彼がカスケさんだったのか・・・
【こんなパン持ってきてどういうつもりなんだとも言っていました。これならパンで十分だと】
そんなことまで言われていたのだ。私はカチンときた。こうなったら意地でも協力してもらおう。
私はソワレに頼んである料理を作ってもらった。それをもってまたヤパン村に行く。今回は昼前だ。
「旦那様は留守で・・・」
やはり居留守をつかわれた。仕方がないので帰る・・・ことはない。途中で道端に座り込んだ。もちろんあの初老の男がこちらをうかがっている。
「ああ、疲れた。お弁当でも食べよう」
少し大きな声でそう言うと、持ってきた料理を広げた。大根と芋の炊きもの、甘辛い豆腐、煮た魚など・・・。そしてパンを添えた。
「せっかく、ここの人たちに食べてもらおうと思ってコックに作ってもらったのに・・・」
それに興味をわいたのか、初老の男は少し近くに来た。エサに食いついたようだ。私はその男に声をかけた。
「ちょっと! そこの方!」
「えっ! 私のことですか?」
急に呼ばれてその男は驚いたようだ。
「ええ。こちらに来ていっしょに食べませんか?」
「いえ、私は・・・」
男は戸惑っていた。私はもう一押ししてみた。
「お弁当を持ってきたのですけれど、帰ることになってしまって・・・。重いからここで食べてしまおうって思ったのです。でも多すぎて・・・。よければ食べてくれませんか? うちのコックが作ったものです」
「それなら・・・」
男は並べられている料理に興味があったのだろう。こちらに来て座った。私は彼に皿とかフォークやスプーンを渡した。
「さあ、どうぞ」
「ではいただきます」
男は大根と芋の煮物を皿にとって口に入れてみた。
「うまい!」
思わず声が出たようだ。やはりソワレの料理は口にあったようだ。男は他の料理も食べて感嘆の声を上げていた。
「いやあ、うまいもんですな」
「そうでしょう。私もこの料理が好きです。パンもありますから」
今度はパンを切り分けて手渡した。
「さあ、パンも」
「ええ」
男は料理と一緒にパンも食べた。だが今度は「ん?」と微妙な顔をしている。
「おいしくありませんか?」
「ええ、まあ・・・。パン自体はうまいと思うのですが・・・」
「そうだと思います。合わないですね」
私はそうはっきり言った。男は不思議な顔をした。
「ごめんなさい。わざとそんな料理を持ってきたのです。でもコメなら・・・きっとおいしいはずです。そうお思いになりませんか? カスケさん!」
「えっ! ええと・・・」
ズバリ自分の名前を言われて男は動揺していた。
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