第22話 大評判

 卵焼きパンの計画はうまくいきそうだ。しばらくしてララが馬車に乗ってやって来た。その荷台にはリュバンの焼いた一人用のパンがたくさん積まれている。


「さあ、がんばってたくさん作るのよ!


 ソワレに卵焼きを作らせ、私はそれをパンにはさんでソースをかけて、ララが紙で包んだ。しばらくすると多量の卵焼きパンが出来上がった。


「これだけあれば上出来よ。さあ、次!」


 私たちは「卵焼きパン!」「新発売!」の旗を作って馬車につけた。そして卵焼きパンを入れた籠を馬車の荷台に載せた。


「さあ、売りに行くわよ!」


 村の中をソワレが馬車をゆっくり走らす。ララが得意の笛で軽妙な曲を吹く。そして私は声を出す。


「さあ、さあ! オペラ食堂の卵焼きパン! ふっくら卵焼きに特製ソース! 頬っぺたも落っこちるおいしさ!」


 すると村の人が集まって来た。(いい頃合い)と見て馬車を止めてさらに声をかける。


「さあ、買って! 数に限りがあるから早い者勝ちよ!」


 紙包みをはずして卵焼きパンを見せる。だが誰も買おうとしない。みなこわごわと見ている。食べたことのないものに抵抗があるようだ。


(困ったな。誰も買ってくれない。斬新過ぎたのかな・・・)


 そう思っていると一人の婦人が馬車の前に来た。40歳くらいで上品な雰囲気だ。見かけたことがないので村の人ではないような気がする。


「ひとつください」

「はいどうもありがとうございます。銅貨3枚です」


 その婦人は卵焼きパンを受け取ると、その場で紙包みを外して大きな口でかぶりついた。


「ああ、おいしい! ふっくらした卵がたまらないわ!」


 あまりにおいしそうに食べるので、それを見ていた村の人はごくりとつばを飲み込んだ。そしてその婦人はあっという間に卵焼きパンを平らげた。


「ああ、おいしかった。こんなパンは初めて・・・」


 すると村の人たちが馬車に殺到した。


「俺にもくれ!」

「俺にも!」

「俺は4つだ! 家族の分も!」


 卵焼きパンはどんどん売れていき、ついに完売になった。


「申し訳ありません。完売です。でもオペラ食堂に来ていただけたらお出しできます。それ以外にも素晴らしいお料理を用意しております。どうぞオペラ食堂へ・・・」


 私はそう宣伝しておいた。これならオペラ食堂に来てくれると確信した。



 上機嫌でララとともに牧場に帰るとリュバンが台所で何やら作っていた。


「ただいま!」

「お帰りなさいまし。お疲れでしょう」

「ええ。それにお腹がすいた。何かない?」

「ではこれを・・・」


 リュバンがあの卵焼きパンを出して来た。


「これは!」

「おいしいですよ。ソースはなかったのでトマトから作ったものですけどね」


 私とララはその卵焼きパンにかぶりついてみた。ソワレのところで作ったものと遜色ないほどおいしかった。


「おいしいわ。でもどうして?」

「食べてみておいしかったから私も作りたくなったのです」

「リュバンは食べたっけ?」


 するとリュバンが笑い出した。


「ほほほ。まだお気づきにならないのですか?」

「えっ? 何のこと?」

「私が最初のお客だったのですよ。ちょっと魔法を使って変装して・・・」


 あの婦人はリュバンだったのだ。サクラになってくれたおかげで卵焼きパンが売れたのだ。


「そうだったの。助かったわ!」

「まあ、これくらいは魔法を使ってもいいかと思いまして・・・。でも後は自力でお願いしますよ」


 リュバンはくぎを刺すのも忘れない。


「わかっているわ。もう大丈夫だと思うの。この卵焼きパンはおいしかったもの。また食べたいと思うから・・・」

「そうでございますね」

「リュバン。すまないけどあのパンをまた大量に焼いておいて」

「わかっております。もうたくさん焼いております。明日のために・・・」


 リュバンも卵焼きパンが売れると見て準備してくれていた。


「さあ! 明日は大入り満員だ! 忙しくなるぞ!」



 それは次の日に現実となった。オペラ食堂に多くのお客が集まったのだ。卵焼きパンにかなりの注文が入る。それをララとともにこなしていく。その合間にちゃんとした料理の注文も入る。ソワレは厨房で大忙しだ。

 店の前には長い行列もできた。村の人どころか、評判を呼んで町からも人が来てくれていたのだ。それで数時間ですべて完売になった。こうしてオペラ食堂の忙しい1日が終わった。


 食堂は大成功だ。そのうちにお客の数も落ち着いてきた。卵焼きパンも売れるが、その他の料理も評判が良くてランチやディナーを食べにくる常連のお客が増えた。店の売り上げは順調だ。しばらくは食堂の手伝いで忙しい日々が続く・・・。だがそのうちに村の娘が食堂で働いてくれるようになったので、私とララはお役御免となった。


「これで牧場の仕事にまた専念できる」


 今は主に乳搾りしかしていない。あとは動物たちに任せっきりだ。それはいいのだが、畑の方を何とかしなければならない。ソワレからは必要な野菜や穀物を言ってくるが、とても私とララでできるものではない。

 そんな時、あの4人が現れたのだ。それは前触れもなく・・・。

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