第21話 卵焼きパン

 3日間、食堂のお客はゼロだった。こんな村に食堂を出したから当然なのかもしれないが、それにしても村の知り合いの1人や2人は来てもよさそうだ。


(これは何かある・・・)


 私はそうにらんだ。誰かが妨害しているようならやめさせねばならない。


 4日目、私は食堂から少し離れた場所に陣取った。おかしなことがあるかどうか、観察しようとした。すると村の人が食堂を通りかかると2人の男が前に立ちはだかり、脅して追い返しているのが見えた。


「これが原因だわ! 一体何者?」


 私は危険も顧みずに2人に近づいた。いざとなればあの姿になればいいと思って・・・。


「あなたたちなにをしているの!」


 私は2人組の男に声をかけた。振り返ったその男たちは・・・・。


「お兄様!」


 2人はブルーメとレーヴだったのだ。私に見つかりバツが悪そうに頭をかいている。


「食堂にお客さんが来ないと思ったら、お兄様が妨害されていたのですね! どうしてこんなことをなさるの?」

「いや・・・その・・・」

「ちょっとな・・・」


 ブルーメとレーヴは顔を見合わせてはっきり答えようとしない。もしかして私の牧場までつぶそうという魂胆か・・・。だから私は言ってやった。


「プリモ伯爵の命令ですか? デザート家の私が邪魔で・・・」

「いやいや、そんなことはない」

「伯爵は無関係だ」


 2人ははっきり否定した。


「じゃあ、一体、何のためです! はっきり答えてください!」


 私は大声を上げた。その声に押されてようやく2人は話した。


「いや、平民になったとはいえ、元はれっきとした公爵令嬢だ。こんな食堂で働くなんて・・・」

「そうだ! 恥ずかしくないのか? 俺たちはお前がそんな姿で働く姿に耐え切れなくて・・・」


 どうも2人は私のことを思ってそんなことをしていたらしい。しかしこの際、はっきり言ってやらねばならない。


「お兄様。私のことを思ってしていただいたようですが、それは止めてください。私はこの村、この牧場で生きていくことにしたのです。公爵令嬢の肩書はすでになくなっており、ここにいるのはあなた方とは関係のなくなった平民の娘です。どうか私のことは心配せず、お戻りください」


 それで話は終わると思った。だが2人はまだしつこく言う。


「そんなことを言うな。お前のことを今でも妹と思っている。だから我が屋敷に来い」

「ああ、そうだ。それなら我が屋敷に。メイドとして暮らせるぞ」

「いや、我が家に。給金をはずむぞ。2倍だ!」

「3倍出す!」


 この2人はやはりシスコンをこじらせ、私にメイド服を着せようとしている。以前と変わっていない。


「いい加減にしてください!」

「なあ、考えてくれよ」

「いいだろう?」


 いい加減、2人のしつこさに私は切れた。


「帰れ! 2度と来るな!」私の前に現れるな!」


 2人は驚いて慌てて帰っていった。これでここには来ないだろう。多分・・・。

 だが困ってことになった。村の人は元兄たちに脅されたので食堂に来てくれないだろう。

 私は店に戻ってソワレにそのことを話した。


「そうでしたか・・・どうりで・・・」

「ごめんなさい。私の元兄のせいで・・・」

「それはいいのですが、この分で厳しいですね」

「そうね。どうしたらいいの・・・」


 私は頭をひねった。食べてもらわねば食堂のすばらしさをわかってもらえない。


「食べてもらうには・・・あっ! そうだ!」


 私は思いついた。これなら食べてもらえると・・・。


「ソワレ。ちょっと待ってて! いいことを思いついたから!」


 私は急いで牧場に戻った。その古い大きな倉庫を探すと馬車があった。


「これよ! これさえあれば・・・」


 きれいに掃除して馬をつなげばすぐに使える。私はその辺にいたララにそのことを頼むと、家に戻った。


「次はリュバンに・・・」


 リュバンは小麦粉をこねていた。ちょうどパンでも焼くようだ。いいタイミングと思いながら彼女に頼んだ。


「一人用の長いパンを焼いて」

「えっ! お嬢様。どんなものですか?」

「ええと・・・。このくらいの大きさで柔らかいパン。」


 私は絵で描いてリュバン示した。


「どうするんですか? こんなパン? 食堂で出すのですか?」

「そんなようなもんよ。じゃあ、お願いね。たくさん焼いておいて」


 今度はまた食堂だ。その前に鶏舎に寄ってたくさんの卵を入れたバスケットを抱えていく。


「ソワレ。お待たせ! あなたはふっくらした卵焼きを一杯焼いてちょうだい」

「お嬢様。お客も来ないのに・・・」

「いいから。たくさんよ!」


 これで下準備が整った。後はソワレ特製の調味料を調べてみる。


「ん? これがいいかも。たくさんあるし」


 それはトマトから作った赤くドロッとしたソースだった。甘みと酸味が絶妙だ。


「卵にこれをかけてパンではさめば出来上がり。ちょっと試して見るか・・・」


 私はそこにあった大きなパンの一片を切り取って、真ん中を切り開いてふっくらと焼けた卵をはさんだ。そしてその上からあのソースをかけた。これで完成だ。


「さて・・・味はどうかな?」


 口を近づけると食欲をそそる、いいにおいがする。大きく口を開いてかぶりつく。すると卵のふっくらした感じと特製ソースがうまくマッチしている。


「おいしい!」


 それをソワレが興味深そうに見ていた。


「お嬢様。これは?」

「卵焼きパンよ! ちょっとした食事にいいでしょう」


 私はもう一つ作ってソワレに渡した。彼もにおいをかいでかぶりつく。


「うまい! こりゃ、最高だ!」

「そうでしょう! パンと卵焼き、それに特製ソースがあればこんなおいしいものができるのよ」

「でもお嬢様。これをたくさん作ってどうするのです? お客も来ないのに・・・」

「ふふふ。それは考えているわ!」


 私は胸を張った。


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