第20話 宣伝
ようやく食堂を開店することになった。ただこんなところに店を開いても最初は誰も来てくれないだろう。村の人たちに宣伝する必要がある。だが村は大きいし、人も多い。1件1件、訪ねて回ることもできない。
「ビラでも配ろうか?」
私は提案したが、ソワレが首を横に振った。
「字を読めない人も多いのです。それに紙がいりますし・・・」
「じゃあ、村の人に直接言うしかないの?」
「知り合いの村の人には声をかけていますが、それだけではちょっと・・・」
「私に考えがあるわ。任せて」
私にはプランがあった。やはりここはみんなに協力してもらわなければ・・・。
まずはビラを用意しなければならない。字が読めない人も多いから絵にして・・・だがこれが多数、必要だ。ここだけはリュバンの力を借りることにした。
「リュバン。このビラをたくさん欲しいの」
「お嬢様。何度も申し上げておりますが魔法をあまり使っていたら・・・」
「目をつけられるということでしょ。でもビラをたくさん作るくらい大丈夫よ。印刷機を使えばできるんだから。でも時間がないからお願い!」
「仕方ありませんね」
リュバンは渋々、ビラを100枚ほど出してくれた。これだけあればあちこちに配れる。
そしてこれからが本番だ。ビラを配らねばならない。それには村の人に集まってもらわねばならない。そうするために・・・。
私はソワレに急ごしらえの楽器を作らせた。楽器と言ってもそんな立派なものじゃない。ボウルに豚の皮を張って即席の太鼓とし、小さな鍋とともに体の前に固定した。それをお玉で叩けば愉快な音が出る。
ララには自慢の笛を吹かせることにした。
「ララ、軽妙で人を引き付ける曲を吹いて。できるわね?」
「できますけど・・・一体何をするんです?」
「ソワレの店の宣伝よ! 村の中を楽器を鳴らして歩くの。多分、興味を持って村の人が出てくるでしょう。そこでビラを渡して店に来てもらうようにするの・・・」
私はララに説明した。だが彼女は今一つピンと来ていないようだった。
「お嬢様は?」
「私はビラを配るだけ・・・」
「それだけでは・・・」
ララは何か言いたげにソワレの方を見た。
「まことに申し上げにくいのですが、目立つためにはお嬢様にはあの姿に・・・」
「あの姿!」
「そうです。もしそうしていただければかなり良いかと・・・」
ソワレはそんなことを勧めてきた。隣のララも大きくうなずいている。
(2人にやらせておいて自分だけしないというわけにはいかないか・・・)
私は腹をくくった。
「わかった。そうするわ! みんなで盛り上げましょう!」
「おう!」
私たちはこうして村を練り歩くことになった。
その日、開店の前日だが、私たちはいよいよ宣伝活動を開始した。私はあの魔法剣士の姿になっている。その後ろにララが笛を吹き、最後尾のソワレが笛に合わせて急造の太鼓と鍋を叩く。
「ピーヒャラ、ピーヒャラ、チンチンドンドン・・・・」
派手な音に村人たちが出て来て道に並んで見ている。恥ずかしいが私は仮面をつけているから少しはましだ。
「オペラ食堂が明日のお昼に開店します。食べに来てね!」
私は声をかけながらビラを渡していく。村の人たちは笑って受け取っている。なかなか感触はいいようだ。やっているうちに愉快になって来た。その軽妙な音楽に乗せられて
「オペラ食堂よ~♪ 来てね~♪ 来てね~♫」
私は節までつけて歌って躍り出していた。そのインパクトは相当だったようだ。村の人たちも一緒に歌って踊っていた。一日中・・・。
思い返すと顔から汗が噴き出すほど恥ずかしい。だがうまくいったと信じたい。
いよいよ開店の日になった。朝から気合を入れてソワレが準備している。今日の料理は得意のハンバーグだ。多くの人が来店すると見越してかなりの数を用意している。
私たちも牧場の仕事を切り上げてオペラ食堂に集まった。ララやリュバンは手伝おうとエプロンまでしている。
時間を見るとお昼になっていた。
「さあ、開店よ! がんばりましょう!」
私は食堂の扉を開けた。そこには・・・
「誰もいない・・・」
昨日はあれほど盛り上がっていたのに、誰一人お客として来ていない。ララが心配そうに聞いた。
「お客さんはいないのですか?」
「まだ来ていないみたい。村の人たちはお昼が遅いのかな」
私はそう言ったが、それから待ってみてもだれ一人、食堂に来なかった。
ソワレは厨房で椅子に座ってじっと目を閉じている。不安な気持ちを何とか抑えているようだ。私とララは店の外に出たりしてみたが、通りかかる村の人はいない。
「おかしいなあ・・・」
わたしは首をひねった。あの宣伝には自信があったのに・・・
「仕方がないですよ。最初はね。そのうちにお客が来て、あっという間に一杯になりますよ」
リュバンはそう言うが、私はそんな暢気に構える気にならない。
結局、その日は誰も来なかった。オペラ食堂の未来に早くも暗雲が立ち込めていた。
次の日も私だけはお昼に食堂に行ってみた。だが誰一人、お客は来ない。待てど暮らせど・・・。
その次の日も、また次の日もそうだった・・・。オペラ食堂にお客は誰も来ない。
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