8


優希「ふぅー、助かった」


優希はユキに黒い影を剥がしてもらいながら立ち上がる。


優希「にしても、この黒いの何だったんだ?」


倉葉「あれは憑く事も消滅する事も出来なくなった、言わば霊の成れの果てね」


菜津「言わば怨念に近いかな」


優希「なるほどわからん」


倉葉「普段は人に影響与える事は稀なんだけど、ここの力場は相当強いから半実体化してたみたいね」


優希「へー…ん?ユキ、どうした?」


ユキは執拗に指で四角いマークを作って示していた。


優希「ん?四角い何か…零話盤か?」


激しく頷くユキ。


優希「あー、置いてきたなあれ」


頭を抱え項垂れるユキ。


菜津「そんな事もあろうかと!

じゃーん!ただのペンとメモ帳〜!」


倉葉「ここ、力場かなり強くて実体化してるから使えるのね」


菜津「そゆこと。はい、ユキちゃん」


ユキは菜津からペンとメモ帳をうけとり、筆談を始める


ユキ(ココ マダ ナニカイル)


優希「何かってなにさ?」


ユキ(ココノ ボス)


菜津「ボス?どこに?」


ユキ( ↑ )


優希「上?」


優希は、懐中電灯で上を照らす。

すると…


それは居た。


それは天井にベッタリと張り付き、影とも霧ともつかない黒いモノが静かに蠢いていた。



優希「うわあきめぇ!」


倉葉「さっきまでのと違う?」


ユキ(ホンシツハ ニテル

サッキハ マケタ

ツギハ マケナイ)


優希「…策はあるのか?」


ユキ(ユキ リョウテ ダシテ)


優希「ん?こうか?」


優希が差し出した両手を、ユキは両手で包み込む。

冷たくもあり、温かくもあり、不思議な感じがした。


ユキは大きく頷くと、両手を離し、上を見上げる。


優希「…まさか、相討ちとかしないよな?」


その問いにユキは困ったような表情を浮かべる。


倉葉「…あんたも覚悟決めなさい」


優希「…わかったよ。

ユキ、夏になったら海でも行こうな」


菜津「呼んだ?」


倉葉「あんたは空気を読みなさい」


ユキは笑いながら大きく頷く。


そして黒い影に静かに飛び込んでいった。


――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る