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怜悟「あそこまで優希がヘコむのは見たことないな」


菜津「そだね。

身内以外の他人には淡白な面もあったからね」


倉葉「気づいてなかっただけで、私らと会う前からユキちゃんは居たはずだから当然よ」


詩恵歌「…これ、さっき舞って落ちてきた」


光「なにそれー?」


詩恵歌が拾ったのは2枚の紙。

1枚目にはこの別荘の間取り図が書いてあり、2枚目には…


光「これって…地下?」


1枚目に重なるように書かれた、地下空間と地下通路の間取り図だった。


倉葉「これ、この図の通りなら地下から古井戸を通って外に出られそうね」


優希「…地下だって...?」


部屋の入口でへたり込んでいた優希がようやく反応を示した。


優希「地下があるなら…そこにユキは連れて行かれたのか?

そこにユキは居るのか?」


倉葉「連れ去ったやつが何もして無ければね」


菜津「行く?優希」


優希「…ユキは俺のことを守ってくれてたんだろ?

なら今度は俺が助ける番だろ」


菜津「そっか。なら3人で行くか」


詩恵歌「…え?」


倉葉「そうね、怜悟と光と詩恵歌は先に出てて」


怜悟「なんでだよ?」


光「みんなでいく流れでしょー?」


倉葉「守れる自信ないからよ!私の力が足りないから!」


怜悟「…なら俺らは出ていかねーよ。

この部屋で待っててやる」


光「ボードゲームでもして待っとこっか」


詩恵歌「…今日は徹夜かな」


優希「お前ら…ちゃちゃっと片付けて帰ってきてやる」


倉葉「まったく…朝になったら出られるはずだからちゃんとにげなさいよ!」


菜津「えーっと地下へ床扉は…姿見の真下か。

よし、穴があったら入りたい!」


優希「入って出てくるな」


――――――――――


地下通路にて…


優希「暗いな…ライトない?」


菜津「こんな事もあろうかと、じゃじゃーん!懐中電灯2つ!」


倉葉「なんであるのよ。ていうかなんで人数分無いのよ」


菜津「本来は裏山を肝試しで行こうかと思ってて。

2個の理由は倉葉は両手空いてる方がいいかと思って」


倉葉「そう。なら優希が前、菜津が後ね」


優希「おっけ」


懐中電灯を付ける一行。

そこで目にしたのは…


倉葉「…白いわね」


菜津「上と同じなのかな?」


優希「先の通路が二手に分かれてるな」


倉葉「どちらかが古井戸から外に出る方ね」


菜津「間取り図からすると、左が広い空間に繋がってる方だね」


倉葉「そっちは白くないわね。注意して。

そこから先は霊が実体化しててもおかしくない場所だから」


菜津「一旦退路も確認しとく?」


倉葉「照らすだけならね」


菜津「…右の通路はずっと端まで白いみたいだね」


優希「なら左一択だな」


菜津「ユキちゃん救出作戦開始!」


優希「おう!」


倉葉「充分警戒して。歓迎されないと思うから」


優希「…今更だけど、敵は何なんだ?」


倉葉「…そうね。

推測だけど、霊ですらない何か、だと思う。

私、霊の気配もわかるし見えるんだけど、ユキちゃんをさらった黒いモヤには霊とは違う気配がした」


優希「なるほど分からん」


菜津「今の今まで霊の事知らなかったからねぇ」


優希「うるせー。

そういう菜津はどこまでわかってんだよ?」


菜津「ん?この世界の森羅万象全て」


優希「…は?」


倉葉「バカ言ってないで進むわよ」


――――――――――


少し進んで…


優希「広い空間に出たな」


倉葉「…なにか聴こえない?」


優希「なにそれ」


菜津「かすかになんか聴こえるね」


優希「なんかってなに?…あれは?」


広い空間の奥を懐中電灯で照らす優希。

そこに見えたのは…


優希「ユキ!」


思わず駆け寄ろうとするが、


倉葉「待ちなさい!」


それを、腕を掴み制する倉葉。


優希「なんだよ!」


倉葉「周りをよく見なさいよ!」


ユキと思われる、倒れた人の姿の周りには、


優希「…なん…だよこれ!?」


無数の黒い影。


大小様々な人の形や獣の形をした黒い影が周りに浮いていた。


菜津「…成れの果て...」


倉葉「…もしかして、これ全部霊だったモノ!?」


優希「…ユキ!動け!」


その声にピクリと動くユキ。


よくみると、指先から、爪先から、端から黒くなり始めていた。


優希「待ってろ!今行くからな!」


倉葉「あ、ちょっと!」


優希は倉葉を振り払い、ユキに駆け寄ろうとする。


すると、近くに浮いていた影の1つが優希の脚に貼り付く。


優希「な!?」


質量は無いはずの影が貼り付くと、そこが重くなったように感じ、よろけそうになる。


そして1つ、また1つと優希の体に張り付いていく影。


優希「くっそ!離れろ!」


手で払おうとするも、すり抜けて触れず、また1つ、また1つと、影が腕に、頭に、背中にといくつも張り付いていき、ついには膝を付き、立ち上がれなくなっていた。


そして似たように、ユキの姿にも、黒い影がいくつも貼り付いていく。


優希「ユ…キ!」


ほとんど全身が黒い影に貼り付かれながらも、這ってユキに近づく優希。


ユキに届くまで数m、数十cmと近づく。


優希「ユキ…!手を伸ばせ…!」


ユキも黒く染まった手をゆっくり伸ばす。


互いに手を伸ばし、あと数mmの所でユキの動きが止まる。


優希「…ユ…キ...!」







菜津「そおい」


優希「いだっ」


なんと、あろうことか菜津は優希を足の方から蹴飛ばした。

そして、


優希とユキの手が重なり合う。


その瞬間、ユキが薄く光を放ち、


ユキに貼り付いていた黒い影が弾け飛んだ。




菜津「間一髪かな?」


倉葉「…あんたよく蹴り飛ばしたわね」


そんなやり取りを尻目にユキはふわりと浮き上がり、


ビシッとVサインを頭上に掲げた。


菜津「…元気そうだね」


倉葉「霊なのに元気って意味わかんない」






優希「そんなことより俺の黒いの剥がしてくんない?」


――――――――――

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