大きな穴ぼこ

緑龜

ぼくがみているもの

 ぼくは特に代わり映えのしない子供だ。でも今には十分満足している。お母さんたちもいるし、友達だっている。今日のおやつは僕の大好物、甘いお菓子だそうだ。さっきまでは家族で出かけに行っていたし今日はとても楽しい日だ。でもそんな今日のような日でもいつも考えていることがある。空を見上げるといつもそこにいる大きな穴ぼこたちのことだ。ぼくが生まれる前から、ぼくのずっと前の先祖が生まれる前からいたのだ。その穴ぼこのおかげで少し太陽の光がおさえられている。でもほかには何かをしてくれてるとは思えない。そんな訳でよく意味の分からない穴ぼこたちのことをいつも考えている。だれが何のためにおいたのかなって。


 ぼくはごくごく普通の会社員だ。別に話すこともない。今はそれよりこれからの仕事についての話をしたい。すごく怖いしめんどくさいのだ。まず怖いというのはすごく気味の悪い生き物を殺す、殺してしまうということだ。まず見かけたら近づかないだろうし写真でも見たくない。撮りたくない。そしてめんどくさいというのは何回もそこを往復することだ。何回も何回も特殊な土を運ぶ必要がある。どんなふうに特殊なのかは知らない。でもとにかく往復する必要がある。怖いし不安だ。


 その日の午後2時50分グレーチングを開け特殊な土を流し込む工事が行われた。その下に住んでいる気持ちの悪い生物は5本の触角をちらちらしながら威嚇した。気持ちが悪い見た目なので誰もひどいなんて言わなかった。皆それで当然と思っていた。しかしその生物からしたらたまったものではない。息子や友人や母親が一気に土に埋もれていくのだ。穴ぼこが無くなったと思ったら急に明るい光がこれでもかと降り注ぐ。そしてその瞬間に大きな影があたり一帯を覆いつくす。地獄絵図だった。一瞬の地獄絵図だった。みんな死んだ。


 そろそろおやつかなと思っていたら穴ぼこが消えてとても明るくなった。そしたら大きな粒が次々と降ってきた。皆痛いと言っていた。ぼくも痛かった。でもそんなのは一瞬だった。すぐに意識が薄れていった。


 流し込む作業を終えた時すごく悪いことをした気がした。まわりは早く埋めてしまえと言った。でも本当にそんなことをするととても見てられない。こんな作業ははじめてだ。悪いことをしてしまった。ぼくの心には大きな穴ぼこが開いていた。

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