ストライカー充

蒼さは若さの象徴として夏に映える。

永遠じゃないと頭ではわかっているのに、つい忘れて目の前のことに夢中になってしまう。


刹那の連鎖、いとしき体といとしき命。

前々世から探していた君を見つけ出したときの感情。


そういったものの全てが今の僕を動かしている。たぶんきっと。



「これって脈なしかなあ」


充が送ってくれたトーク画面のスクリーンショットを眺めること数秒。

わずか2ラリーのやりとり。

火を見るよりも明らかな脈なしそのものの痕跡がそこにはあった。


「彼女はきっと最大関心事が他のところにあるとおもう。少なくとも今のところは」


お前の問いに対して、できるだけ傷つかないようなYesの翻訳結果を画面に打ち込む。


僕は急に虚しさを覚えた。お前はいつからそうなったんだ。

おれたちもう中学生じゃないんだぜ。


充、立派なアラサーになった今のお前は、体育のクラスでゴールネットを揺らし短髪を汗できらめかせていた頃の面影なんてない。

放課後になればクラスメートの一軍メンバーと連れ立ってカラオケやゲーセンで遊び歩いていたのを、僕はただ横目で見ていた。そんなことすら懐かしい。


物事のよしあしなんて、客観的な価値基準で測ることなんてできないよな。

それでも僕はやっぱり単純に眩しかった頃のお前を知っているから、

自分の好意と他人の善意を履き違えてしまう今のお前は解せない。



A子はエリアの合同研修で知り合った2つ下の後輩だ。

艶やかな黒髪をツインテールにして、前髪は眉毛と同じ高さで切り揃えられている。

鼻にかかった高いよく通る声で話し、誰にでも笑顔で接していた。

背は高くはないが低くもなく、胸は目立つほど大きくはない。

どちらかといえば美人ではなく可愛い系で、華奢で男なら誰もが守りたくなる小動物系というところ。


研修を終えた午後、たまたま帰りの方向が一緒だったので駅まで送った。

話の流れでメッセージアプリのIDを交換して、今度数名を交えてご飯に行くことになった。


簡単な挨拶にはじまって、それぞれの事業所が抱えている課題点について話した。

おやすみの挨拶に可愛いスタンプが添えられていた。


それから数日は忙しく過ごした。

エリアマネージャーとして研修結果を示すべく、新人の教育や管理に力を入れた。

合間に休憩室や喫煙所でA子とメッセージをやりとり。俺の数少ない癒し。

ささやかな日常に彩りは必要だ。

課金しているモンスト、エナジードリンクとIQOS、家に帰ればネトゲと溜まっているアニメの消化もある。

そういえば会員制のジムからはしばらく足が遠のいていたな。


数週間が経過した。

A子とはご飯の約束をしてはいたが、なかなか都合が合わない。

お互いが同じ会社の違う職場ということもあり休みも合わない。

プライベートで新しい関係がないという話題から進展がない。

日曜の午後に時間を作るために有給を使うことも辞さない。


居酒屋を予約した。

駅から歩いて数分、大衆向けだがオシャレな空間。

メッセージのやり取り数回、楽しみだねと歓談。

後輩の同期と合わせて三人、警戒も減るという算段。

ここは先輩の俺がと見得を切る、給料日前四日の英断。


前日にA子からメッセージ。


「直前にごめんなさい。

 お友達がご飯行こうって言ってくれてたのすっかり忘れてて。

 ご飯はB男と行ってきてください。申し訳ないけれど」


それほど申し訳なくはなさそうに君はいう。

前の夜に送った俺の「A子が彼女だったら毎日がより華やかになるのに」という部分には既読の印だけを残して。



「これって脈なしかなあ」


学生時代の友達に送ったこの一言に、そいつは瞬時にしかし熟慮した跡が見える婉曲的な表現でYesを俺に突きつけてくれた。


あぁ終わった俺の数ヶ月。

そういえばレンタルの期日が迫っていた。

22インチモニタの前に座って自分で自分を慰めるために、ズボンのファスナーを下ろした。


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