うるわしきJ
ヤマザキくんというクラスメートがいた。
たしか小学校低学年の頃だったと思う。僕と彼は仲は良くも悪くもなかった。
彼は誰より情報通で、いち早く新しいニュースを仕入れていた。
コロコロコミック、週刊少年ジャンプだとか少年ガンガン、サンデーなどが情報源だったのだと思う。
今でこそネットに誰もがアクセスできる時代で、公共性の高い情報に対しては実質的な格差はほとんどないといっていい。
当時はパソコン自体が珍しく、通信速度も遅くてネット上の情報はオフィシャルも含めて充実していなかった。
そんな時にあってヤマザキくんは何かと重宝されていた。
ヤンキー、陽キャ、カースト上位系、ぼっち系など分け隔てなく誰とでも同じような距離感をキープできる立ち位置。
やがて成長するに連れてどの層が覇権を握るかがハッキリとしてくる。
当然(ガチではなくファッション寄りの)ヤンキーが一番目立って、それと対になるように一軍系女子がカップリングする。
われわれ陰キャの間では暗黒時代と呼ばれるローティーン期だ(勝手にいっしょにカテゴライズするな)
*
だがヤマザキくんは身の振り方もわきまえていた。
するりと上位層に入り込み、いち早くガルフィのパーカーなどの
イケてるヤンキーファッションのアイテム情報源という彼らにとって欠かせない存在となった。
auで一番流行っている二つ折りのカメラ付きケータイに、大きすぎる派手なストラップ。
鮮やかなカラーのベルトと緩めたワイシャツをオーバーサイズ気味に着こなす。
正直大してイケてない顔面の彼が(失礼すぎ)
ダサすぎる田舎ファッションを身に纏ってどうしようというのか謎だった。
もちろん僕のその感覚が間違っていた(歴史の常として、勝者こそが正義なのだ)。
ヤマザキくんの隣には学年で最もチャーミングなうるわしい彼女がいた。仮にJとしよう。
ファッション誌のモデルにもなったことのあるという、少女漫画にでも出てきそうな女子学生だ。
そのカップリングは最初から色々な人から祝福されていた。
おそらくヤマザキくんのことだから、周到な根回しが済んでおり、
ヤンキーのイケてる男子からも、Jの取り巻きの一軍女子からも支持を得てから交際を申し込んだのかもしれない。
けっきょく知れ渡っている範囲では、同学年で一番続いた安定したカップルだったらしい。
それだけ目立った女子生徒がいれば先輩、後輩や同学年の男子からそれなりに注目されてもいい気がする。
でもなぜか我々の間では、Jの名前や話題が上がることはほとんどなかった。
良くも悪くも彼女はひとりだけ別枠といった形で。
Jは底辺の学校にしては優秀で、先生からも気に入られており、何かと人前に立つ機会が多かったようなイメージがある。
だが卒業アルバムを開いても探さないと見つけられないくらい存在感がない。
名簿と照らし合わせて見つけると「どうして目に入らなかったのだろう」というくらいの美人だが、
どうにも印象に残らないというべきか、よく描けてはいるが特徴のない風景画のようで現実味がないのだ。
情報通のヤマザキくんとうるわしき模範的なJ。
卒業したあと彼らがどうなったのか風の便りにも聞かない。
一度だけ、地元のお祭りの神輿担ぎをやっている派手なヤンキーファッションのヤマザキくんを見かけた。
彼はいまでもその持ち前の情報力を駆使して、社会的に確たるポジションを抜け目なく確保しているのかもしれない。
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