星屑の罪
星奈(せいな)の部屋は、静寂に包まれていた。
翠(ミドリ)の手首を握る星奈の指は震えていた。
「ミド…いや、翠…?女の子だったの?」
星奈の声は、驚愕と混乱に揺れていた。
翠のシャツがはだけ女の子の身体が露わになった瞬間、時間は凍りついていた。
翠の目から涙が溢れ、言葉が喉に詰まった。
「ごめん…星奈ちゃん、言えなくて…でも、私は君が大好きで…」
声は途切れ、翠は星奈の手を振りほどこうとした。
だが、星奈は離さなかった。
「待って…待って、翠。」
星奈の目は涙で潤み、混乱の中に何か強い光が宿っていた。
翠は立ち尽くし、星奈の顔を見つめた。
星奈の表情は驚きから戸惑い、そして何かに気付いたような複雑な色に変わった。
「私…君が女の子でも、君が翠でも…君のことを特別だと思ってた気持ちは、変わらないよ。」
星奈の言葉は、翠の心を突き刺した。翠は信じられなかった。
アイドルである星奈がファンである自分を、女の子である自分を受け入れるなんて。
「でも…星奈ちゃん、アイドルとしてこんなこと…ダメだよね?」
翠の声は震えた。星奈は唇を噛み、翠の手を強く握った。
「ダメかもしれない。でも…君とこうしてる今、嘘じゃないよ。」
その夜、二人は初めて本当の名前で呼び合った。
翠と星奈は、ソファに寄り添い互いの心を確かめるように言葉を交わした。
「翠、なんで男の子ってことにしたの?」
星奈の問いに、翠は目を伏せた。
「君に近づきたかったから。男の子のファンの方が、君の心に届きやすいと思った…ごめん、嘘ついて。」
星奈は翠の頬に手を当て微笑んだ。
「バカ。嘘でも、君の気持ちは本物だったよね。私は気づいてたよ。翠の目、いつも私を真っ直ぐ見てた。」
二人の唇が再び重なった。
今度は、秘密も嘘もすべてをさらけ出した上でのキスだった。
翠の心は、喜びと罪悪感で引き裂かれていた。星奈の温もりに溺れながら彼女は思った。
アイドルとファンの線を越えたこの関係は、いつか二人を壊すかもしれない。
それでも、翠は止まれなかった。星奈の笑顔や星奈の声、星奈の手――すべてが翠の生きる理由だった。
冬の東京は冷たい風が吹き抜けていた。
翠と星奈の逢瀬は、星奈のマンションでひっそりと続いた。
星奈はアイドルとしての忙しい日々を縫い、翠を部屋に招いた。二人だけの時間は、まるで現実から切り離された夢のようだった。
星奈は翠に寄り添い、ステージでは見せない素の表情を見せた。
「翠、今日の撮影めっちゃ疲れた…でも、君に会ったら全部吹っ飛んだよ。」
翠は星奈の髪をそっと撫で、「星奈が笑ってくれるなら、私なんでもするよ」と囁いた。
だが、二人の関係は秘密の重さに耐えなければならなかった。
星奈はアイドルとして、恋愛はご法度だった。ましてやファンとの、しかも同性との関係はスキャンダルどころか彼女のキャリアを破壊するかもしれない。
翠もまた自分の嘘が星奈を傷つける可能性に怯えていた。
星奈が「男の子」だと思っていた「ミド」に心を許したように、翠が女の子だと知った今は星奈の気持ちは本物なのか?翠の心は、愛と疑いの間で揺れ動いた。
ある夜、星奈の部屋で二人はこれまで以上に深い会話を交わした。
「翠、もし…私たちがこうやってるの、誰かにバレたらどうなると思う?」
星奈の声は小さく不安に満ちていた。
翠は星奈の手を握り、「バレないようにするよ。私、星奈を守るから」と答えた。
だが、星奈は目を伏せた。
「私、アイドルやめるべきかな…翠と一緒にいたいなら、全部捨ててもいいって、思うときあるよ。」
翠の胸が締め付けられた。
「ダメだよ、星奈。君の歌が君の輝きがファンのみんなにとって宝物なんだから。私、君がステージに立つ姿ずっと見ていたい。」
星奈は涙をこぼし、翠に抱きついた。
「翠…君、ほんとバカ。なんでそんな優しいの?」
二人の関係は、愛と罪の間でさらに深まっていった。
星奈は翠に、アイドルとしての自分を支える力があると言った。
翠は星奈に、彼女の笑顔が自分の生きる意味だと伝えた。夜の部屋で二人は互いの身体に触れ、言葉を超えた絆を確かめた。
キスは熱を帯び、互いの心臓の音が重なった。翠は星奈の肌の温もりを感じながら思った。この瞬間は、どんな代償を払っても手放せない。
だが、秘密は積み重なるほどに重くなった。
翠は学校で、星奈のファン仲間と話すとき、彼女との時間を隠さなければならなかった。
星奈はグループのメンバーやマネージャーに、プライベートの変化を悟られないよう気を張った。
ある日、星奈のXにファンからの「最近、星奈ちゃんの笑顔なんか違うね。恋でもしてる?」という投稿が寄せられた。
星奈は笑顔で「そんなわけないよ~!」と返したが、翠はそのやり取りを見て胸が締め付けられた。星奈の笑顔は翠だけのものではない。
彼女は数万のファンの星奈でもある。
春が近づく頃、翠と星奈は一つの約束を交わした。
「どんなことがあっても、二人だけの秘密を守ろう」
星奈の部屋で、星奈は翠の指に小さなリングをはめた。ペアリングではない、ただのシルバーのリングだったが星奈は言った。
「これ、翠との約束の証。バレないようにでも、いつもそばにいるよ。」
翠は涙をこらえ、星奈の指にも同じリングをはめた。
「星奈、私は君を絶対離さない。」
二人の指は絡み合い、リングが月明かりに光った。
しかし、秘密の重さは、二人の心を蝕み始めていた。翠は夜中に目が覚め、星奈の寝顔を見ながら、恐怖に襲われた。
もしこの関係がバレたら、星奈の夢はどうなる?自分の愛は、星奈を壊す毒になるのではないか?
星奈もまたライブのステージでファンの歓声を浴びながら、翠の顔を思い浮かべ胸が疼いた。
翠との時間は彼女の心を満たしたが、同時にアイドルとしての自分を裏切っている罪悪感に苛まれた。
ある夜に星奈の部屋で翠は星奈に抱きしめられながら、初めて本音をこぼした。
「星奈…私、怖いよ。このまま君と一緒にいたら、君の未来まで壊しちゃうかもしれない。」
星奈は翠の髪を撫で、「バカ、君がそばにいるから私は頑張れるんだよ。怖いのは私も一緒。でも、君とならなんでも乗り越えられる気がする。」
星奈の言葉は翠の心を温めたが、恐怖を消し去ることはできなかった。
物語はここで終わる。
翠と星奈は、ファンとアイドルの境界を同性の壁を越えた。
二人だけの秘密は愛の証であると同時に、罪の重さでもあった。
リングが光る指を絡め、二人は未来への不安を抱きながらも互いの温もりにすがった。
星屑のような二人の時間は、いつまで輝き続けられるのか。誰も知らない。
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