第4話




翌日、私はいつもより少しだけ早く教室に入った。

まだ誰も来ていない、静かな時間。机の列は、整然と並んでいて、まるで誰も存在しない学校みたいだった。


私は自分の席に座って、周りを見回した。

きのう、あの紙を誰が置いたのか――

考えてもわかるはずない。でも、考えずにはいられなかった。


前の席の子は、ほとんど口をきいたことがない。

斜め後ろの子は、よくグループで笑っていて、私の存在なんて気にも留めていない。

じゃあ、誰が? なんのために?


理由は、わからない。

でも、私は生まれて初めて、“自分のことを見ていた誰か”の存在を意識していた。



チャイムが鳴って、教室がにぎやかになる。

机に突っ伏して、私は目を閉じた。

誰の声も届かない。私には無関係な音。


だけど――今日、ひとつだけ違うことがあった。


ホームルームが終わったあと、何気なく机の中をのぞいたら、そこにまた、紙が一枚入っていた。


今度は、色がついていた。

青い便箋。昨日より、少しだけ気を遣った痕跡。


私は指先でそっとそれを開いた。


――「見えなくても、声は届くことがある。」


今度の字は、少しだけ震えていた。

昨日より、近づいてきた気がした。


その瞬間、私は思った。


「私は、誰かに話しかけられている。」


それは言葉じゃなくて、もっと深いところで。

だれにも聞こえないような、心の声で。


そんなふうに思ったのは、初めてだった。

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