第3話…ボーカル

私は舞台俳優を目指してここに来ている。


歌うことが幼い頃から大好きだった。



「ばーいせこっばーいせこっ!」

「あいわんとぅーらいまいばーい!」


父の車でいつも必ず流れるQueenの曲。


幼い頃意味は分からなかったけれど思い出の曲。


私の音楽人生はあそこから始まったと言っても過言では無いだろう。


大音量で流した曲に皆ノリノリで歌を重ねた。


決して裕福ではなかった私達にとってのライブ会場は父の愛車の中だった。


蘭華学園に行きたいと話した時はお父さんは泣いてたな。


「叶が有名人になるのか…お父さん応援するよ」


本当私の事になるとすーぐ泣くんだから。



今日はまず皆の実力チェックということで、各々好きな曲をワンコーラス歌うことになっている。


「杉乃叶です。舞台俳優になるために入学をしました。最近の好きな歌手はMr.Childrenさんとコレサワさんとbacknumberさんです。」


.•♬【SPARK】コレサワ(敬称略)


私の大好きな曲のひとつ。


好きなのもあるけれど、曲調が緊張しても歌いやすいものだったからこの曲を選んだ。


鼻からスタジオ全ての空気を取り込むように思い切り息を吸い、身体中に酸素を駆け巡らせる。


そして目を閉じもう一度スっと軽く鼻から息を吸い息を飲むとステージにただ1人立っているような感覚になる。


観客のような者は見えていない。


曲が流れ出せばこっちもの。


曲の世界に飛び込んでリズムに乗って音を乗せてサビまで歌いきる、それだけ。


だけれど今日は違ったの。


少し視線を落とすと楽しそうにリズムに乗っている観客が1人見えて緊張が全て歌と姿勢に出てしまった。


それは咲希ちゃんだった。


またこれも私の歌声に恋をしているかのように。


私だけを目から取り込んでしまいそうなくらいな強い眼差しで見つめながら、目尻は滑り台みたいに垂れ下がっていて、私以上に楽しそうで。


やはりまた彼女は読めない。


確かに楽しんでいるのは分かるし、この曲が私と同じく大好きみたいだ。


でもそれだけ。


もどかしい、いつもなら私の方が心を読んで相手より優位に立つような感じなのに。


咲希ちゃんを前にすると私の方が心読まれている感覚になってしまう、何故だ。


ずっと見透かされているようなそんな感覚。


私の脳や心を貫いてそのまま背後からも見られているようで、だけれど目の前の彼女からの視線が強く熱く私の脳裏にもへばりつく。



この日、私は【緊張しい】【集中力がない】【歌が下手】という本来なら有り得なかったレッテルが貼られた。

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シースルー 子律 @kor_itu-o

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