ジャストサイズ一口ハンバーグ

白川津 中々

◾️

明日のお弁当何がいいと聞いたら「ハンバーグ」と答えられブチギレそうになる。


なんで? ハンバーグ作るのが面倒臭いから? NonNon。息子のいうハンバーグとは冷凍食品の"ジャストサイズ一口ハンバーグ"を指しているからである。ミニや小さいといったワードを避け、ジャストサイズなどと謡う商品名の小賢しさ。便利だが好きになれない冷食の一つだ。だが、息子が所望するだけあって味はいい。冷凍されているにも拘らず肉質高くジューシーな舌触り。大人が食べても満足できる逸品なのだ。

しかしながら明日は家族参加の遠足である。父子家庭とはいえ弁当の中身が冷食では面目が立たない。彩豊かで、人様のご家庭に引けを取らぬ、なんならマウントを取れるようなおかずを詰めたいわけであるからして、息子のリクエストに応じるわけにはいかなかった。


「分かった。明日はお父さん、早起きしてハンバーグ作るな」


そこでアンカーを打つ。

あえてすっとぼけて「もちろん手作りだよね」という前提が成立している体で話をつけるのだ。これぞ完璧な作成。どれだけジャストサイズ一口ハンバーグが食べたくとも、嬉々として挽肉をこねる父の姿を連想すれば、その好意を無下にはできまい。名付けて、父子の情に付け込む『地獄への道作戦』。我ながら完璧な計画ではないか。


「いや、冷食のでいいよ」


息子は鬼子です。

秒で即答。マッハのスピードによる冷食宣言。おいおい息子よ〜〜〜〜お父さんがせっかく作るっていってんだぜ〜〜〜〜? 手作ってもらえよ〜〜〜〜


「いやぁ、しかし、ね? 冷食はいいんだけど、手作るからさ。その方が美味しいだろ? ドミグラスソースも自家製のやつかけるしさ」


「いや、別に」


別にってお前、人の心ないんか?


「なんでそういう事いうかなぁ。パパ頑張るっていってんじゃんかさぁ。手作らせてくれよぉ。せっかくの親子遠足だぜぇ?」


「衛生面考えなよ。手作りしたら絶対細菌入るじゃん」


「馬鹿! そんなこといったら手作り食べらんないじゃん!」


「時間経過考えろよな。手作りの場合、昼食までおよそ7時間放置されるわけだよ。粗熱取ってから詰め込んで、保冷剤と一緒にランチバックで運んだとしてもリスクは作りたての比じゃない。どれだけ注意したって家庭での防止策じゃ限界があるし、弁当は冷食が安全だよ。反論はあるかい? ないなら"ぐぬぬ"とか言って悔しがりなよ」


「ぐぬぬ」


なんて可愛げがない!

衛生面の話など持ち出されては承諾せずにはいられないじゃないかちくしょう! 「じゃあカロメでも食ってろ!」といってやりたい!


「それにねお父さん」


「なんだ」


「そんなに頑張らなくていいんだよ。仕事に家事に子育てで、自分の時間なんかまったくないじゃないか。好きだった酒も控えて俺のために犠牲になっているんだ。だから、弁当作りくらい手を抜いたっていいんだよ」


「……お前」


なんと優しい子だろうか! 鬼子とかいってすまんかった! やはりかけがえのない一人息子! 育ててきた甲斐があった! 


……と、普通であれば感涙するだろう。


「本当は?」


「お父さんの料理クソ不味いから冷食の方がマシ」


「……泣いていい?」


「俺の目につかないところでなら」


「ぐぬぬ」


俺、シングルファーザー。子育て奮闘中。

課題は料理。

まずは、及第点を目指そう……

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