ゴースト・コンビニエンスストア
ちびまるフォイ
金欠幽霊の立ち寄り所
コンビニバイトの面接は本社で行われた。
「はい、では面接は以上です。最後にひとつよろしいですか?」
「あはい」
「霊感はあるほうですか?」
「いえ、わからないです。でもたぶん無いかと」
「それならよかった」
「なんでですか?」
「霊感強い人だとすぐに辞めちゃうんです」
その後、配属先のコンビニについたとき理由がわかった。
ゴースト・コンビニエンスストアが自分のバイト先。
自動ドアが勝手に開くが電源は入っていない。
「まさかここって……幽霊のコンビニなんじゃ……」
自分以外の従業員はいない。
厳密には肉眼で見えていないだけ。
休憩時間に監視カメラを見ると。
「うわっ……! う、うつってる!!」
そこには……。
床を念入りに掃除する幽霊従業員の姿がうつりこんでいた……!!
「……でもなんか思ってたのと違う」
幽霊は白装束ではなくコンビニの制服を着ていた。
誰もいないはずのバックヤードからドリンクの補充をしている幽霊もいる。
幽霊の頑張りのおかげで店内はいつもピカピカ。
自動ドア(幽霊手動)があき、生身の人間がやってきた。
「いらっしゃいませーー」
自分ではないどこかから声が聞こえた。
客のおばあちゃんはコピー機の前に立ち、持ってきた本を挟み込む。
そして操作するディスプレイの前でフリーズしていた。
「えっと、この次どうするのかしら……」
おばあちゃんが困っていると、勝手に機械が動き出す。
幽霊がコピー機をポルターガイストして動作させていた。
入れ違いに入ってきた別の客はコーヒーマシンの前にやってきた。
カップをかざすだけでボタンを押さずにコーヒーが出てくる。
これも幽霊が気を利かせてくれていた。
自分が見えていないだけでこのコンビニには
たくさんの従業員地縛霊が待機していて完璧なホスピタリティを提供している。
「ゆ、幽霊コンビニってすごい……!」
不気味という点を除けばすばらしい店舗。
長くバイトしているとだんだん幽霊が見えるようになってきた。
「さて、今日もそろそろ閉めるかな」
バイトも慣れたころ。
鍵をかけて店を出ようとしたとき。
覆面の二人組がやってきて、思い切り頭を殴られた。
「ぐっ!?」
打ちどころが悪かったのか、一発で立てなくなる。
覆面の二人組はまっすぐ無人レジへと向かった。
「ご、強盗……」
なんとか声を出してみるが、かぼそい声しか出ない。
腕に力も入らないので通報もできない。
強盗たちは覆面からもわかるくらい喜んでいた。
「ははは。本当に無人なんだな」
「ここは幽霊のコンビニで人間はあのバイトひとりなんだ」
「ちょろいもんだぜ。さあ、全部根こそぎ持っていこう」
強盗たちはレジを破壊して中の緑のお札をカバンに詰める。
従業員の幽霊たちは激怒。
誰もいじっていない冷房がガンガン冷え込んでくる。
「なんか寒くないっすか?」
「気にするな。どうせ幽霊の悪あがきだろ」
「怖くないんです?」
「どうせやつらは危害を加えられない。
せいぜい冷房つけるくらいが関の山さ」
なおも幽霊の抵抗は続く。
監視カメラが勝手に強盗をとらえ、
レジのディスプレイに恐ろしい顔が映し出される。
「うわああ!? はやく出よう!」
「バカ、びびんじゃねぇ。まだ金が残ってる」
「先に車で待ってる! 俺はもう限界だ!!」
強盗のひとりがたまらずコンビニから逃げようとする。
自動ドアが勝手に閉まって強盗たちを閉じ込める。
「ひいい!! ドアが! ドアが開かない!!」
「焦るな。割っちまえばいいだろ」
レジのお札をすべてかっさらった強盗たちは、
窓に手形がびっしりついた車で逃走した。
その後コンビニを訪れた客により通報。
生身の自分は病院で治療をうけた。
頭のたんこぶが引っ込み始めたころ、本社にふたたび招集された。
「バイトくん、今日はなぜ呼ばれたかわかるかな?」
「こないだの強盗……でしょうか」
「そうだね」
「その……なにもできず、すみません。
レジのお金も全部もっていかれちゃいましたし。
犯人もまだ捕まっていないんでしょう?」
「ああ、そっちはべつに良いんだ。
君に苦労をかけたことを謝りたくてね。
今後はもっと店舗の防犯をしっかりするよ」
「はあどうも。でも本当にいいんですか? お金を取られましたけど……」
「そっちはべつに」
「全額ですよ?」
「あ、そっか。君はまだレジ担当してなかったんだっけ」
「はい。普段は無人レジと幽霊が対応しているので」
「これが君の店舗でやりとりしているお金だよ」
ポンと渡されたお札は緑色で、見たこともない柄だった。
「これはお金……なんですか?」
「あの世のお金だよ」
「え?」
「君のコンビニは幽霊も利用しているだろ?
だから共通通貨としてあの世のお金"冥銭"で会計しているんだ」
「それじゃ強盗が奪ったのも……」
「すべて冥銭なんだ。今ごろ大変だろうね」
「いえ、コンビニはもう大丈夫です。いつも通り営業していますよ」
「コンビニじゃなくて、強盗のほうだよ。
彼らが盗んだあの世のお金の総額を知っているかい?」
「さあ……いくらくらいなんです?」
「レジ全部のお金を盗んだとなると……。
今は
「ひゃっ、ひゃくおく!? そんなに!?」
「現実のお金と、あの世のお金のレートは違うからね。
今頃大変だろうなぁ……」
「なにが大変なんです?」
「想像するだけでも恐ろしいよ……」
本社のひとはそれきり答えなかった。
一方、強盗は現実じゃ使えない100億もの冥銭を抱えて苦しんでいた。
「や、やっぱりこのお金返しましょうよぉ!!」
「バカ! そんなことしたら強盗だと捕まるだろ!」
「でもこんな生活続けられないですって!!」
ふたりが隠れている部屋には一面の御札が貼られている。
盛り塩をいくら備えてもなんら効果はない。
100億ものあの世で使える現ナマがある部屋。
そこに幽霊が寄り付かないわけがない。
周囲の幽霊たちは大量のお金に吸い寄せられ、
墓地や心霊スポットを遥かにしのぐ幽霊居住地帯と化していた。
「100億……うらめしや~~……」
部屋にこだまする幽霊たちの声に強盗の精神は崩壊することとなる。
ゴースト・コンビニエンスストア ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます