第2話 好きとかじゃないです(念のため)
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放課後の文芸部室に、椅子が二つあるのが不思議だった。
一つは私の。もう一つは……空いてた椅子。
それが、今日になって初めて使われた。
隣に座るのは、転校生・久我駿。
仮入部のつもりらしいけど、その「仮」がいつ外れるかなんて、こっちは気が気じゃない。
「小説とか読むんだ?」
彼が机の上の文庫本を指差して、軽く聞いてくる。
「……まぁ、読むだけじゃなく、書いたりもしてるけど」
「へえ。どんなジャンル?」
「ジャンル……?」
一瞬、答えに詰まった。まさか、「異世界に転生した令嬢が魔王に恋してドーナツを焼く話です」とは言えない。
しばし考え、やや苦し紛れに言葉を搾り出す。
「青春、かな……? 恋愛……? でも、ちょっと笑えるようなやつ」
駿はちょっと目を見開いて、それから笑った。
「それ、俺、たぶん好きなやつだ」
――今、何かがスパーンと跳ねた音がした。
心臓だった。私の。
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その日の帰り道、私はコンビニでドーナツを買った。無意識に。
魔王でもないのに。
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翌日。昼休み。
文芸部副部長(自称)である花音が、私の机にやってきた。
「しずく先輩、転校生との距離が急接近中と聞いて、恋バナセンサーが暴走しております!」
「いや、別に。ちょっと部活に来てくれてるだけだし」
「はいはい、フラグ立ちました~。“ちょっと”って言い方、恋が始まる人の99%が使うやつですね?」
「証拠ゼロすぎるでしょ……!」
だけど、内心は否定しきれなかった。
彼があの部室に入ってくるたび、私の中の“物語”がざわめく。
それは、自分で書くものじゃなくて、自分が登場人物になるような感覚。
今までとはまるで違う“物語の始まり”が、私の中で静かに――でも確かに、動き始めている。
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その日の放課後、彼はまた文芸部室にやってきた。
ノートの中の走り書きを見つけて、自然な手つきで読む。
そして、言った。
「これ、すごく面白いと思う。続き、読んでいい?」
……やめてよ。そんな風にまっすぐ言われたら。
「……読むなら、最後まで責任取ってよね」
我ながら、意味深なことを言ってしまった。
でも、それがどういう意味だったのか、本人にも私にも、まだ分からなかった。
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【To Be Continued】
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次回「第3話:敵か味方か、ツンデレか。」も
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