青春ギャグ
@mirumiru3
第1話 その気はないんです、たぶん。
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四月。春というにはまだ肌寒い朝。
葉月しずくは教室の窓際の席で、カーテンに顔を押しつけながら、心の中でささやかに呟いていた。
「今年は部員、来るかなあ……」
手元の文芸部入部届一覧は、もちろん白紙。昨年度の廃部危機をギリギリ回避したとはいえ、部員数の現状は限りなく絶望に近い。なにせ、在籍者は彼女ひとり。副部長どころか幽霊部員すら存在しないソロプレイヤー状態だ。
と、ドアがガラリと開いた。
「……あ、ここでいいんだよな」
風に乱れた髪と無防備な目つきの男子が、やや困ったような顔で教室を見渡していた。
彼がそこに立っただけで、空気がひとつ変わった。
まるで、ページが捲られる瞬間の音がしたように。
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久我 駿。転校生。
あまりにも唐突に、しずくの世界に現れた彼は、物語にしか出てこないような不思議な空気を纏っていた。
「……よろしくお願いします、久我駿です」
席はしずくの隣。
いや、もう少し正確に言うなら「近すぎず、けれど目に入る絶妙な距離」。
まるで誰かが、運命のスライドパズルを動かしたような位置だった。
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授業中、しずくはそっと視線を送る。
(転校生って、もっとガンガン喋るか、ものすごく沈黙系じゃない? この人、なんか……普通だ。でもそれが、なんか気になるんだよな)
駿はノートを真面目に取りながら、たまに小さく笑っていた。
その笑顔は、しずくの脳内シナリオライターを瞬時に起動させる。
《異世界から来た転校生――魔王の息子、しかし優しすぎて人間界に追放された男》
(やばい、ちょっと面白い……!)
気づけば、しずくのノートには彼をモデルにした物語の冒頭が走り書きされていた。
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放課後。誰も来ないはずの文芸部室。
ふと扉が開き、しずくは椅子から転げ落ちそうになった。
「……ごめん、邪魔だった?」
そこに立っていたのは、久我駿。
「先生が、文芸部ってここって言ってたんだけど……仮入部、見学いいかな?」
しずくは数秒間、脳内で鐘の音が鳴るのを聞いた。
それは「恋のはじまり」とは違う。「事件の予感」とも少し違う。
だが確かに、物語が動き出した瞬間だった。
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【To Be Continued】
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