第6話 街道の危機

数日後、タクミとゴンベエは、ようやく森を抜け、人が行き交う中華風の街道に出た。舗装されていない土の道には、轍が深く刻まれ、時折、荷馬車が行き過ぎる。


「やっと人のいる場所に出られたな」


安堵の息をつくタクミに、ゴンベエは同意した。


「ああ。この道を進めば、いずれ街にたどり着けるだろう」


二人が歩き始めて間もなく、前方の道で騒ぎが起きた。一台の荷馬車が、道の真ん中で立ち往生している。御者の男が困った顔で、倒れた大きな木を見上げていた。


「どうしたんだろう?」


タクミが呟くと、ゴンベエは興味深そうに目を細めた。


「どうやら、木が倒れて道を塞いでしまったようだな」


近づいてみると、荷馬車には、疲れた様子の父親と、十五歳くらいの娘が乗っていた。父親は、必死に木を動かそうとしているが、びくともしない。


「何か手伝いましょうか?」


「うーん、これは手強そうだ」ゴンベエが呟いたその時、茂みの中から数人の人影が現れた。


「おい、お前ら! 金目の物を置いていけ!」


現れたのは、明らかに悪党とわかる風体の男たちだった。鋭いナイフや剣を手に、ニヤニヤと一行を見下ろしている。盗賊だ。


「ひっ……!」娘は恐怖で息を呑んだ。父親は娘を庇うように前に出た。


「お、お前ら……一体何者だ!」


「俺たちは通りすがりの……まあ、お前らの持ってる物を少し分けてもらおうって連中だよ」盗賊のリーダーらしき男が、下卑た笑いを浮かべた。


タクミは身構えた。どうすればいい? 逃げるか? しかし、商人の親子を見捨てることはできない。


その時、ゴンベエはタクミのすぐ隣、5~6歩ほどの距離で、ただ立って見ているだけだった。戦う様子は全くない。


盗賊の一人が、タクミに向かってナイフを突き出した。


「邪魔する奴は、容赦しねえぞ!」


ゴンベエが、信じられない行動に出たタクミの前に出たのだ。

盗賊の 一人がゴンベエに斬りかかった 、ゴンベエの腕を 切り裂いたのだ。


「ぐえっ!」


ゴンベエは短い うめき声を上げたが、次の瞬間、タクミは信じられない光景を目にした。切り裂かれたはずのゴンベエの腕が、まるで 映像を巻き戻すかのように、跡形もなく 回復していくのだ。


そして、さらに信じられないことに、今度は別の盗賊がゴンベエの首に 剣を突きつけた。その 首筋を 引いて切り裂いたのだ。


「が……!」


ゴンベエは うめき声を上げ前のめりに倒れてしまった、しかし、次の瞬間には

さっきと同じような現象が発生して、首の傷も完全に回復していた。


何が起こったのか、誰も理解できなかった。タクミ自身も、何が起きたのか、一瞬わからなかった。


別の盗賊が剣を振り上げた。その剣がタクミの首筋に迫った時、剣を持っていた盗賊が、自分の剣で首を切り裂かれ、地面に崩れ落ちたのだ。


周りの盗賊たちは、信じられない光景に目を丸くしていた。

「何かの魔法だ」盗賊の頭目らしき男が叫んだ


「取り囲んで魔法を放たれる前にとりあえずこいつを切れ」


盗賊たちは恐慌状態に陥り、一斉に切り込んだが、次の瞬間全員が反射スキルで血だるまになって倒れた。


騒ぎが収まると、あたりには血の匂いと、倒れた盗賊たちの無残な姿だけが残っていた。商人の親子は、信じられないものを見たという表情で、タクミを見つめていた。ゴンベエは、相変わらず冷静な顔で、その光景を眺めていた。


「あ、あなたがは……一体……」父親が震える声で尋ねた。


タクミは、ただ静かに答えた。「僕のスキルです。攻撃を反射する力なんです」


商人の親子は、何度もタクミに頭を下げ、感謝の言葉を述べた。彼らは、タクミとゴンベエに、お礼として近くの町まで馬車で送ってくれるという。


「本当に助かりました。あなたがいなければ、私たちはどうなっていたか……」娘は涙目でタクミに言った。


馬車に乗り込んだ時、ゴンベエはタクミに耳打ちした。「なかなか面白いものを見せてもらったぞ」


タクミは少し疲れたが、人の役に立てたことに、ほんの少しだけ満足感を覚えていた。しかし、この後、ゴンベエのとんでもない「趣味」を知ることになるとは、想像もしていなかった。

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