第4話 ななしのゴンベエ

どれくらい歩いただろうか。木々の間から、開けた場所が見えてきた。希望を抱いて駆け寄ると、そこは小さな広場のようになっており、焚火の跡があった。そして、その傍らには、見慣れない男が座り込んでいた。


年齢はタクミとそう変わらないくらいだろうか。ボサボサの黒髪に、どこか飄々とした雰囲気の男だった。


「あんた……誰だ?」タクミは警戒を解かずに問い返した。


警戒しながら声をかけると、男はゆっくりと顔を上げた。その顔には、特に驚いた様子は見られない。


「おや、人がいたとは珍しい。オレは、ななしのゴンベエとでも呼んでくれ」


ゴンベエと名乗る男は、にこやかにそう言った。その手には、先ほどタクミが見つけた赤い実によく似た果物が握られている。


「お前も、この世界の人間か?」タクミはさらに警戒を解かずに問い返した。


タクミが問いかけると、ゴンベエは曖昧に笑った。


「さあな。どっちでもいいじゃあないか。それより、あんた、随分と疲れているようだ。もしよかったら、条件つきでこの果物を分けてやろう」



「条件?」


「ああ。オレは、あんたがこれから何をするのか、ずっと傍観させてもらう。それだけでいい」


ゴンベエの言葉に、タクミは訝しんだ。ただ見ているだけでいいとは、一体どういうことだろうか。


「それだけでいいのか?」


「ああ、それで結構。オレは、面白いものを見るのが好きなんだ」


差し出された果物を見つめ、タクミは警戒心を抱きながらも、誘惑に抗えなかった。喉の渇きと、腹の減り具合は、すでに限界を超えていた。


「……わかった」


おずおずと果物を受け取ると、ゴンベエは満足そうに頷いた。


よく分からない男だったが、この状況で食料を分けてくれるのはありがたかった。タクミは、渋々ながらもゴンベエの条件を承諾した。


「わかった。別に、見られて困るようなことはない」


そう言うと、ゴンベエはにやりと笑った。


「それでこそ、面白いことになるかもしれんぞ」


「なあ、ななしのゴンベエあんた歳いくつだよ」


「17歳だよ」


「え、ボクより年上じゃん・・・」


こうして、内向的な少年タクミと、謎の多い傍観者ゴンベエの、奇妙な旅が始まった。

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