第4話 味ってなんでもあるのかな?


「味って、なんでもあるのかな?」

レシートの束を手にして呟く。高級コーヒー豆も、輸入チョコも、最新ガジェットも――どれも虚しくて、胸が冷たく沈んでいった。


ポケットの数字は無限に増え続ける。

でも、どう使えばいいのか、本当にわからない。


ある夜、ネオンの向こうに浮かぶメイド喫茶の看板が、ひときわ甘く見えた。

――“味”の正体は、人かもしれない。


扉を押し開けると、紅茶と甘い声が僕を包んだ。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

その言葉が、胸の奥をそっとくすぐる。僕は高揚を覚え、つい「ご主人様」と呼ばれる悦びに身を任せた。


僕はメニューの最上位「特製いちごパフェセット」を頼む。

メイドさんが微笑みながら仕上げるパフェは、甘酸っぱくて、だけどどこか儚い――。

その一口で、懐かしいトキメキがほんの少しだけ蘇った気がした。


しかし、レジを済ませた瞬間、スマホに入金通知が連打された。

「振込入金:¥1,000,000」

「振込入金:¥2,000,000」

数字が増えるたび、僕の心はひんやりと冷え、先ほどの胸の高鳴りが遠のいていった。


それでも僕は通い続け、貯めたポイントを現金化する“裏ルート”を覚えた。

スタンプを買い占め、また現金へ――。

無限増殖のループに身を委ねるたび、胸のしめつけるような高揚は、少しずつ薄れていく。


気づけば、隣に座るメイドさんの笑顔にも、以前のようには心が震えない。

「楽しい?」と尋ねられても、僕はただ「うん」と頷くだけだった。


夜が更け、手に残るスタンプカードの感触が、どこか冷たい。

お金を得るたびに、僕は“何か”を失っている──恋する心の機微を、少しずつ、確かに。


けれど、その代価に僕はまだ、気づいていない。

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