■エピローグ
列車が去ったホームに、夜風だけが吹き抜けていく。
誰もいないベンチにまた腰を下ろした俺は一人で座ったまま、しばらく動けなかった。
足元に落ちた街灯の影が、少しだけ揺れている。
菜月が隣にいた場所に、もう何も残っていないのに、まだぬくもりの名残を感じる気がした。
十年前。
俺たちは、本気だった。
夢に、本に、そして――互いに。
けれど、それだけじゃ、どうにもならないこともあることを知った。
あのとき分かっていたはずのことを、今また、思い知らされている。
俺はベンチに背を預けて、夜空を見上げた。
どこまでも澄んだ空に、言葉にならなかった想いが、ぽつんと溶けていく。
声に出すことはなかったけれど、心の奥で、確かにひとつの言葉が浮かんでいた。
――あれは、本気だった恋の記憶だ。
そして今夜、その記憶に、そっと新しい一頁が追加された。
終わった恋のはずなのに、
なぜだかいまも、どこかでまだ続いているような気がしている。
ただそんな未練すら、もうやさしく感じられた。
本気で好きだった。いや、今も好きなままだ。
それだけは、これから先も、きっと変わらない。
まっすぐにはいかなかったけど、
あの恋は、かけがえのない宝物として、今も俺の中でそっと息づいている。
たぶんこれからも、誰にも見えない場所で、
少しずつ形を変えながら、残っていくんだと思う。
不器用なまま書き続ける原稿用紙のすみには、今も、彼女の笑顔がひっそりとある。
やがて俺は、ポケットの中のペンをぎゅっと握りしめると、静かに立ち上がった。
ベンチを一度だけ振り返り、歩き出す。
誰にも追いつけない過去の影と、そっと距離を取りながら、これからも夢を追い続ける。
夜は静かだった。
溢れる想いとともに、風の音だけが、どこか懐かしく、胸に静かに響いていた――あの頃のように。
再会 —あの時、君と選んだ道 せろり @ceroking2
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