第18話 刹那の羅針盤 《最終回》

 すると、アーサー、ディック、ケントの三人から、


『おう。じゃあな』

『気楽にやれよ、ヒューイ』

『またね、ヒューイ、マーカス』


 の挨拶を最後に通信は切れ、画面は普段の待ち受けへと戻った。

 やがてヒューイが


「……地獄って」


 とマーカスに尋ねた。


「お前、言っただろう」


 マーカスが座っているヒューイを見下ろして言った。


「え、なんで……?」


 ヒューイがマーカスの方を見上げて聞くと


「あのとき、ダルトンに呼ばれてたんだ。うまく説得できなくて、ヒューイが発作を起こしたときの介護


 そこまで聞いたヒューイは


「えっ? いたのか? あの部屋に?」


 と急に焦り始めた。

 そんなヒューイに、にっこりと笑い掛けてマーカスは


「うん。ダルトンの机の下に隠れてたんだ」


 と白状した。


「冗談じゃない。お前はりたろう」


「それはお前だろう。言っとくがな、お前が俺を選ぶように、俺にだってお前を選ぶ権利くらいはある。なんでもかんでも勝手に決めるんじゃない」


「マーカス……」


「水臭いぜ。共に堕ちようぜ、地獄にさ」


 と笑って言った、そのときだった。


「お、早いな。お前ら」とボビーが部屋へ入ってきた。


「ボビー?!」


 マーカスが驚きの声をあげ


「何? ボビーもここなの?」


 とヒューイが尋ねた。ボビーは驚く二人に


「いや俺は来期つぎから、いよいよ訓練おわるし、それまでの繋ぎだ。分室にはいられないからな」


 と答えた。


「来期はどこ?」


 そうヒューイが尋ねると、ボビーは


「ネット喫茶のオーナー」


 と短く答えた。


「町に出るの?アダムの店があるのに?」


 再びマーカスが尋ねると、ボビーは


「ああ、あいつは別の任務に就くから、後任が俺」


 と持って来た荷物を空いている机に置きながら、ボビーが答えた。


「あそこって、外とネットワークで繋がってるんだよね。連絡拠点の入り口だろ?」


 ヒューイが尋ねると


「ほぅ。お前詳しいな」


 とボビーは意外そうに聞き返した。


「表向きは、訓練生たちの溜まり場になってるネカフェだし。お前たちもいってるのか」


 二人を見ながらボビーが聞くと


「たまにアダムから呼び出されるんだ。なあマーカス」


 そう言ってヒューイがマーカスを振り返る。するとマーカスも、


「うん。ネットイベントの手伝いとか、問題作成とか」


 と同意した。


「そうなんだ。だったらこれからも頼むぜ」


 と二人に笑いかけた。


(マジか……。ネカフェのオーナー)


 ヒューイは心の中でつぶやいた


 SIS(中央情報管理部)にはいられないと言われたボビーだったが、その部署SISを飛び越して、〈外部対策管理部〉にされたということになるのだ。

 外部接触がある分、内部よりもリスクが高く、そのポジションは重要なものとなっていた。


 それを知っているヒューイは、内心


(やっぱ凄いや)


 と感心したのだが、そのことが分かっているのかどうなのか、マーカスは


「任せて」


 と明るく返事を返していた。

 ボビーは自分の荷物を整理しながら、


「あ、それと」


 とヒューイの方を向き直った。


「お前の『再教育プログラム』の担当、俺だから」


 と告げた。

 急に教育と言われ、焦ったヒューイが


「えーっ? なんの教育だよ?」


 と聞き返すと、ボビーが


「やらかした奴がやることは一つだろ。常識ルールだよ」


 と少しあきれ顔で答えた。するとマーカスが


「きゃはは…ボビー直伝かぁ。 諦めようぜ、ヒューイ」


 軽く笑ってヒューイの肩を抱いてきた。

 解せぬ顔で、なんでとばかりにふてくされるヒューイに


「そしてお前は、今後お前みたいな無茶苦茶な奴が出ないように、ここで後輩の指導だ」


 と付け加えた。

 ヒューイは


「Yes,sir」


 と短くしたり顔で答え、嬉しそうに笑った。


 ― 完 ―



 ----

(本文ここまで)


【あとがき】

 ・刹那の羅針盤 -せつなのらしんばん-

「刹那」(仏教的に)一番短い時間の単位

「羅針盤」方角を示すものの意味

 移ろいやすい時間の中で迎える重要な瞬間の進むべき方向を探る舵取りが今回の内容となってます。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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SIS分室 =消さなかったアラート= ぱぴぷぺこ @ka946pen

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