支配する海のうねり

 僕は今日の任務を終え、教官の馬に乗せられて首都へと帰る。天気は雨。大地を濡らし、海を潤す恵みの雨。そもそもこの雨も元は海のものだと考えると、雨の日は空と大地を海が支配していると言っても過言じゃないかもしれない。


「今日もそれなりに頑張ったな。相応の褒美はすでに準備してある。せいぜい喜びに浸るんだな」

「……はい、教官。ありがとうございます」

「この調子で、死にたくなければその力を完璧に制御するんだ。制御出来ない貴様に価値はない。今こうして生きていられるのも、その天性属性があってこそだと知れ」

「……はい、分かっています。大丈夫です。13年しか生きてないですけど、生まれつき力を駆使して生きてきましたから」

「当然だ。貴様の天性属性はとても価値のあるものだ。両親や村の者たちもそれを理解していた。貴様がどんな感情を持っていたから知らないが、結果的に見れば結局、生まれてすぐに村のために利用されていた。ある意味では我々の大国が救ってやったと言っても過言じゃない。むしろ、今の生活の方が村の時よりも贅沢だろう。結果さえ出せば衣食住は高いレベルで保証されるんだからな」

「それは、……はい、僕もそう思います」


 教官の言うことには反論しない。反論しても何も意味を成さないし、そのつけは任務に影響する。これが今の僕の世渡り術なんだ。絶対的な相手に頭を下げて保護してもらう。生まれの村が恋しいかと言われたら、そこまで思い入れはないし、大国に誘拐されたことに対して怒りはない。流れ着いた場所で、上手く適用して生きていくことが出来るなら、それで良い。それを許されるこの天性属性には感謝しているけど。


「おい貴様。力を使って疲れただろう。任務は終わった。首都に着くまで寝ていろ。ただし、落馬しても助けないからな」


 教官は言葉こそきつく聞こえるけど、どこか優しさを感じる。義務で言っているのかもしれないけど、なんとなく、それだけじゃないって感じる。僕はその言葉に従い、目を閉じた。


 暗闇の底では、大いなる海がうねりをあげ、空と大地を支配していた。

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