大地は空に牙をむく
空は快晴、風が肌寒いけど気温は過ごしやすい一日。俺は目を覚まして大きく伸びをした。果てしない空は自由に俺たちを見下ろしてくれている。ハンモックから降りていつもの身支度をするために家の中に入る。
「早く準備しなさい! 学校に遅れるでしょ!」
「分かってるよ母さん。父さんは?」
「もう出たよ。私も行かなきゃいけないから、朝ご飯食べて、学校に行きなさい。よろしくね」
母さんはそう言ってささっと準備をして家を出ていく。俺は用意されていたパンを頬張り、水で流し込む。スクールバックを持って家を出た。学校は嫌いじゃないけど、でもあまり積極的になれない。世界の事実を理解し始めた時から、俺は本当に勉強をしていて良いのかどうか、悩んでいる。
「おい、聞いたかよ! 西の大国の一部隊がここら辺まで来てるらしいぜ!」
「マジかよ~。この村には来ないよな? 攻撃するものなんてねえし、どこの大国にも協力してねえし、大丈夫だよな?」
「そう願うしかないな。どっかの村は補給地点として協力していて滅ぼされたって話し、少し前に聞いたことあるが、本当に協力してたのかなんて分からないしな」
道中で立ち話していた大人たちがそんな会話をしていた。その内容はもう流石に理解出来てしまう。今は世界が戦争状態で、無力な村は被害に合わないように祈るしかない。俺はそんな話を聞いて、なんだか学校に行く気を無くし、いつもの秘密基地に行くことにした。
少し村から離れた、木の密集する場所。そこには太い木の枝が奇跡的に絡み合い、大人でも余裕で寝転がれる空間が出来ている。俺は風属性を体に纏って木を登り、スクールバックを枕にして横になった。そこからはちょうど青空が見え、雲が流れるのが見える。俺は手を伸ばし、意図的に天候を操ってそよ風を作り出す。心地よい風は木々を揺らし、その音に心を預ける。心にもやもやがある時によくやる落ち着き方法は、今日も効力を発揮してくれた。そしてそのまま、気付くと目を閉じていた。
暗闇の中は何もない。ただ、声がする。全く知らないが、聞いていると嬉しくなる声。その人数は、6人……? その刹那、凄まじい地響きがなり、目を開けた。
目を開けると、時間はお昼すぎになっていた。随分長く寝てしまっていたようだった。地響きは今も続き、耳を凝らすと、その中に人の悲鳴も混じっている。俺は嫌な予感がしてすぐに村に走る。
村の通りに出た俺は、絶句した。地面は赤く染まり、人がその上に倒れている。先ほどまで会話していた大人たちは、目と口を大きく開きながら、地面に倒れている。傷は太い何かに貫かれたように、体ど真ん中に風穴を開けていた。
「母さん、父さん……」
俺は無我夢中で走った。あちこちに転がる死体、破壊された家屋、凄惨な現実に目を背け、両親の職場である村役場の広場に出た。そこには、まさに地獄と呼べる現実が待っていた。
「父さん……母さん……みんな……」
広場は完全な針山地獄になっていた。地属性と見られる岩の槍が地面から無数に伸び、その切っ先には人が貫かれ、力なく重力の成すがままに垂れていた。
「父さん!」
一番前に居た父さんに駆け寄り、声をかける。弱弱しい声で、父さんは俺に気づいて言葉を出す。
「何やってんだ……早く逃げなさい」
「おいていけないだろ」
「どう見ても、もう動ける状態じゃない。良いか、よく聞きなさい。お前はこの村から出て、逃げて生きなさい。父さんの弟、おじさんの家は覚えているだろう。そこに行くんだ。そこならこの村よりも安全だ。不便だがな」
「でも……無理だって……こんなことした奴に復讐してやりたい……」
「復讐心だけで戦っても虚しさしか残らない、とだけ言っておこう。だがそれ以上に、お前のその天性属性は狙われやすいんだ。それが世界にバレたら、どっちにしても追われる身になる。殺すために強くなるな。守るために強くなれ……」
「うん……」
「さあ、行け。大空はお前を見守ってくれてるはずだから」
父さんの言葉を聞き終え、その場から離れる。普段は強がってるはずの自分が涙を流しているのに、すぐに気づいた。背後で明らかに誰かが父さんと話し始めていたが、もはや後ろを振り返ることなく、おじさんの家に向かって、短い旅に出た。
空は不自然なほどに明るく、晴れ渡る。俺は道中、悲しみと衝撃から、大声で地面に頭を伏せながら、喉が痛くなるまで泣き叫んだのだった。
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