ある日、世界は

後藤 悠慈

空が襲い、大地は泣く

 放課後を告げる鐘の音。それは僕にとっての祝福の音だ。僕と友人たちはすぐさま勉強道具を鞄に詰め込み、駆け足で教室を出る。注意する先生の声も無視して、ひたすらに目的地へと大地を踏みしめる。商店のおじさんたちの声に手をあげながら、僕たちの秘密基地にたどり着く。そこは僕たちの憩いの場で、遊び場だった。そこで魔法の練習をしたり、剣の遊びをして遊んでいた。僕はその秘密基地のメンバーの中では最弱。いつも負けては泣きべそかいていた。


 「おい、今日もお前がびりだったな! 早くお菓子買って来いよ!」


 今日もそんなことを言われ、村の商人のおじさんの所に行き、人数分のお菓子を買いに行く。


「よう、坊ちゃん! またぱしられてんな! おまけしてやるから元気出せよ!」


 おじさんはそうやって僕を励まそうと優しくしてくれる。その優しさが欲しくて泣いてるわけじゃないけど、でも、お得な気分になるのは悪い気がしない。そんないつもの日常だったはずの今日は、終わりを迎えた。

 うるさく鳴り響く鐘の音、普段は聞きなれない、人を不安にさせるような鐘の音。おじさんの表情は一気に険しくなった。


「坊ちゃん! 早くこの村の外に避難するんだ! 大国の軍騎士が来る!」


 そういって僕の背中を思い切り押し出したおじさん。僕は何がなんだか分からなかったが、その後すぐ、それを思い知らされた。空から箒に乗った人たちが数人、規則正しい距離感を保って空を飛んでいた。刹那、雷属性や炎属性の魔法が一気に降り注ぐ。おじさんのお店は雷属性の攻撃で一瞬にして切り裂かれ、燃え盛る。おじさんは炎属性の攻撃で全身が焼かれていた。人間の生物的本能が僕の体を無理やり動かす。あれは冗談ではなく、人が死ぬ姿。僕は秘密基地に走った。


 敵の攻撃は苛烈を極め、僕が走る道々はどんどんと雷属性で切り裂かれて焦げ、雑草処理のように炎属性によって焼き払われ始めた。大人は僕を見て逃げろと口をそろえて言う。言われなくても逃げていると言いたかったが、全力以上の疾走をしている僕にはいつの間にか声を出す余裕も一切なく、口呼吸を荒くしながら走ることしか出来なかった。人から発せられる恐怖と警告を知らせる絶叫は耳に刺さり、何がどんな音なのかも分からないほどの混沌に沈む。その世界を僕は、駆け抜けた。


 秘密基地の近くまで来た僕は安心した。ここは攻撃されていない。早くみんなに知らせて逃げようと思い、声をからしながら秘密基地へと近づいた。友人たちは不安そうな表情で僕を見たところまでははっきりと覚えている。でも、次の瞬間、耳を貫く轟音と共に、秘密基地は雷属性と炎属性の攻撃によって消え去った。友人たちは全身燃え、一人は雷属性で体が吹き飛んでいた。僕は恐怖で気づいたらその場を走り去っていた。近くの河原まで走り、そこで僕は座り込む。今起きたことはすべて現実。そのことに気づいた僕は、空のかなた、箒で飛び去る軍騎士たちに向かって慟哭をあげるのだった。

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