物語起伏アッパー！ リライト：脳に現れる叫び 第二話：再生の奇跡、教授の笑み、そして深まる闇

プロローグ：奇跡、そして深まる闇

カフェを出た嵐の体は鉛のように重かった。指先から全身を貫く痺れ、脈打つ頭痛。つい先ほど、彼女――大切な人に、見破られた。苦しい嘘、ぎこちない笑顔。秘密を抱えた。最も大切な人との間に、不可視の壁が立ちはだかった。彼女を喜ばせたいという願いが引き出した力は、同時に、彼女を危険に巻き込むかもしれないという、新たな不安を孕んでいた。

喪失と残骸：破壊の連鎖

研究室。消しゴムの無残な残骸が散乱していた。鋭利な破片。壁や棚には、高速で衝突した痕跡。あの爆音、空気の冷たさ、制御不能な力の暴走。意図的な集中が、なぜ「生成」ではなく「破壊」を？偶然のキャップ生成、砂糖結晶の変容との相違点は？

嵐はノートに記録した。焦燥感が募る。

「能力：物質への直接干渉？ 生成（アクセサリー）、破壊（消しゴム）、兆候（ペン、クリップ、砂糖結晶）。

トリガー？ 生成＝彼女への強い想い＋明確なイメージ（モジュール）。破壊＝意図的な集中？無意識の衝動？感情？

相違点：生成は一瞬、破壊は爆散。プロセスに差？

代償：強い消耗。生成の方が大きい？

制御：現時点では不可能。意図的な集中は危険？」

この力は何か？制御は可能か？教授の「具現化」の仮説は希望か？消しゴムの破壊は、破壊と絶望の可能性を示唆する。そして、あの破壊力…情報結晶化は、創造だけでなく、破壊にも転化するのか？

運命の交差点：再生の衝撃

夕刻。駅へ向かう途中。交差点で、耳をつんざくスキール音と鈍い衝撃音。交通事故。嵐は、駆け寄る人々の輪に無意識に足を踏み入れた。

現場は凄惨だった。車と車の衝突。オートバイ、横たわる。運転手らしき人物、うずくまる。ヘルメットはずれ、顔を歪める。そして、目を剥いたのは、彼の左足。不自然に曲がり、ズボンの生地を突き破り、白い骨が剥き出し。開放骨折。周囲の悲鳴、救急車を呼ぶ声。

嵐の脳裏に、衝撃と、「助けたい」という純粋な衝動が湧き上がった。学術的興味ではない。ただ、目の前の苦痛を取り除きたい。この命を救いたい。彼女を喜ばせたいという、あの時と同じ、純粋な願いにも似た衝動。それが、脳内のどこかに眠る、新たな「モジュール」に触れたかのように、能力の回路を開いた。

気がつけば、嵐は人々の輪をかき分け、負傷者の傍らに膝をついていた。自分でも何をしようとしているのか分からなかった。ただ、指先が、露わになった白い骨に、吸い寄せられるように伸びていた。

奇跡の輝き：再生の神業

骨に触れる。冷たい、硬い感触。その瞬間、嵐の全身を、カフェでのアクセサリー生成とは比べ物にならない、嵐を焼き尽くさんばかりの熱とエネルギーの流れが貫いた。脳の中が激しく脈動し、視界が歪む。周囲の音が一瞬遠のき、時間が引き延ばされたように感じる。脳内に、人体の構造情報、治癒のメカニズムといった膨大な情報が流れ込む感覚。それを、強烈な「助けたい」という意思が、物理的な作用へと結晶化させていくかのようなプロセス。

そして、信じられない光景が、彼の指先の下で起こった。

露わになった骨が、まるで生きているかのように蠢き始めたのだ。歪んでいた骨が、ゆっくりと、しかし確実に元の形へと戻っていく。砕けていたかもしれない破片が繋がり、隙間が埋まる。骨の表面を、肉が這うように覆い始め、破れた皮膚が、瞬く間に寄り集まって傷口を塞いでいく。骨が戻りきり、皮膚が完全に塞がった時、そこには、ほんの数秒前まで骨が露出していたとは思えないほど、滑らかになった皮膚があった。

「…ああ…あああ…！」負傷者、痛みに喘ぎながらも、信じられないものを見る目で自身の足を見つめる。

嵐は、ただ呆然と、自身の指先と、再生した足を見つめていた。先ほどのカフェでのアクセサリー生成が「奇跡」なら、これは文字通りの「神業」だ。物質を形作るだけでなく、破壊する力。そして、生体組織すら再生させる力。情報結晶化は、無機物だけでなく、複雑な生体情報をも扱えるのか。

しかし、その直後、嵐の体は限界を迎えた。アクセサリー生成の比ではない、莫大なエネルギー消耗。目の前が真っ暗になり、平衡感覚が失われる。

「うっ…！」

嵐は、その場に崩れ落ちそうになった。奇跡を目撃した人々が、今度は崩れ落ちる嵐に気づき、ざわめき始める。「おい、大丈夫か？」「急に倒れたぞ！」

嵐は、何とかして立ち上がり、人混みから離れようとした。誰かに能力を見られたかもしれない。この力を知られてはならない。特に、この「再生」の力は…

接触：教授の狂喜と嵐の違和感

人通りの少ない道。スマートフォン。一条教授の連絡先。迷いはなかった。この途方もない力を理解し、制御するためには、教授の力が必要だ。

連絡を入れると、教授は予想以上に早く、そして興奮した声で応じた。急遽、大学の研究室で会うことに。

研究室。一条教授は普段の威厳をかなぐり捨て、子供のように目を輝かせた。

「能見君！まさか、本当に君だったとは！あの事故現場にいたという報告を聞いて、もしやと思ったが…」教授は嵐の手を取り、興奮冷めやらぬ様子。「素晴らしい！まさか、『具現化』が、無機物だけでなく、生体組織の再生にまで及ぶとは！これは…これはまさに神の領域だ！ノーベル賞どころではない！人類の歴史を変える大発見だよ！」

教授の歓喜は凄まじかった。嵐という人間ではなく、彼の体内に宿る「能力」という、前人未踏の研究対象を見ているかのようだった。再生の具体的な描写を語る嵐の言葉に、教授は身を乗り出し、相槌を打ち、興奮のためか声が上ずる。

「骨が！骨が元に戻ったのか！？皮膚が塞がった！？それは…！それはどうやったのだ？どういう感覚だ？触媒は？副作用は？君の体はどうなった？」質問攻めにする教授の言葉には、負傷者の安否を気遣う様子は微塵もない。あるのは、ひたすらに、この異常な能力に対する、純粋すぎるほどの、そしてどこか歪んだ知的好奇心だけだった。

嵐は、教授の尋常ならざる反応に、高揚感と共に、言いようのない「違和感」を覚えた。この人は、本当に私のことを心配しているのだろうか？それとも、ただ、この「力」にしか興味がないのだろうか？

教授はふと真顔になり、嵐の肩に手を置いた。その手は、温かいはずなのに、どこか冷たいように感じられた。

「能見君、この能力は…危険だ。想像を絶する注目を集める。医療機関、政府、軍事組織…誰もが君の力を欲しがるだろう。君はただの人間として生きられなくなる。だが、心配するな。私が守る。この能力は、君と私だけの秘密だ。他の誰にも、家族にも、友人にも…決して漏らしてはならない。」

「秘密」を強調する教授の声は、嵐を「守る」というよりは、外部から「隔離」し、「独占」しようとする意図を含んでいるように響いた。彼の目に宿る光は、学術的な探求心だけでなく、名声や権力といった、別の種類の野心の色を帯びているように見えた。そして何より、「再生」能力への反応が、あまりにも出来過ぎている。まるで、教授がこの能力の存在を、どこかで知っていたかのように。彼の「具現化できるはずだ」という仮説は、本当にただの仮説だったのか？ 偶然のキャップ生成は、彼にとって予期せぬ出来事だったのか、それとも何かを確信させるものだったのか？

教授は嵐から手を離し、再び興奮した表情に戻った。「さあ、能見君。これからの研究が楽しみだ。君の能力を完全に理解し、制御できるようになれば、人類は新たなステージへ進むことができる！私の指導のもと、共に世界の常識を塗り替えるのだ！」

嵐は、教授の言葉に頷きながらも、心臓の奥底に冷たいものが広がるのを感じていた。教授の言葉は希望に満ちている。しかし、その笑みの奥に見えたのは、希望だけでなく、自分自身が巨大な実験の対象となる未来、そして、能力が教授によってどのように利用されるか分からない、制御不能な闇だった。彼女に能力の片鱗を知られたまま、自分は今、さらに巨大で危険な秘密の渦に巻き込まれようとしている。

エピローグ：迷宮への誘い

能力を巡る謎、制御への道のり、そして信頼と裏切り、創造と破壊、希望と絶望が複雑に絡み合う物語が、今、嵐の目の前で、本格的にその姿を現し始めた。教授の指示を待ちながら、嵐は、自身の手に宿った力が、彼と、そして遠くで自身の身を案じているであろう彼女の未来を、一体どこへ連れていくのか、知る由もなかった。