脳に現れる叫び!ブレインストーム!
志乃原七海
第1話:破壊と生成、そして秘密の輝き
物語起伏アッパー! リライト:脳に現れる叫び 第一話:教授の仮説、破壊と生成、そして秘密の輝き
イントロ:静寂を打ち破る、脳内の稲妻
能見嵐、20歳。古ぼけた研究室は、彼の聖域であり、同時に閉ざされた牢獄だった。積み上げられた専門書は、知識の海を象徴し、酷使されたノートPCは、飽くなき探求の証。しかし、それらは凡庸な学生生活を送る他の同級生たちを嘲笑うかのように、嵐を孤独へと追いやっていた。友との他愛ない会話やサークルの賑わいは、嵐の耳には届かない。彼の心は、ニューロンの奥底、量子力学の深淵、そして何よりも「脳波による物質の直接制御」という、アカデミックな世界では異端とされる領域へと、ひたすらに向かっていた。
始まりの兆し:禁断への誘い
時は遡り、嵐がその禁断の扉を叩いた日。それは、脳波計で捉えた思考パターンを解析し、3Dプリンターを自在に操ろうという実験から始まった。脳の活動を物理的な出力に直結させる試みは、当時としても最先端の技術であり、嵐の知的好奇心を強く刺激した。
転換点:現実との衝撃
だが、その実験中、嵐の運命は急転した。特定の形状を強くイメージしながらプリンターの起動を待つ中、突如として、信じられない現象が嵐の視界を捉えたのだ。
物質化の奇跡:思考の具現
プリンターは沈黙した。代わりに、嵐の目前のデスクの隅に、インク切れのボールペンの隣に、全く同じ形状の、新品同様の青いボールペンのキャップが、まるで魔法のように、静かに、そして確かに現れた。
嵐は息を呑んだ。幻覚か、いたずらか?だが、手に取ったキャップは、確かな質感、程よい重さ、そしてプリンターの出力とは明らかに異なる素材感を纏っていた。まるで、自身の脳活動が物質に直接働きかけ、「形」を創り出したかのように。
脳内の雷鳴
その瞬間、嵐の脳内に雷鳴が轟いた。「脳が、物質を…?」脳科学の常識を覆す現象。しかし、この偶然の「生成」は、嵐の研究テーマが3Dプリンターという機械を介した先、脳そのものが物質を操る、より根源的な力へと繋がっているのではないかという、恐るべき予感を抱かせた。
教授の懐疑と、深まる確信
指導教授である白髪の権威、一条教授は、嵐の提出したレポートに眉をひそめた。テーマは「脳波パターンと物質の相関関係」と穏便ながらも、そこにはすでに、彼の独自研究の萌芽、あのキャップ生成を説明しうる仮説の片鱗が潜んでいた。
教授の研究室。書類の山に埋もれたデスクを挟み、二人は対峙する。
「能見君、君のレポート…相変わらず突飛だな。」教授は眼鏡を直し、困惑と、かすかな知的な好奇心を滲ませた。「脳の情報が物質の物理的状態に干渉するという考え…興味深い。だが、証明は、途方もなく難しい。」
教授は一呼吸置いた後、挑戦的な声で続けた。「我々は、脳が筋肉を動かすエネルギーを生み出すことは知っている。だが、もし、脳が物質の構造情報を保持し、それを周囲の素粒子やエネルギーに直接作用させ、物理法則を超越できるとしたら…?意識の集中が極限に達した時…意識を集中させることで、無から物体を具現化できる、と?」
「具現化」。その言葉が、嵐の脳裏に再び雷鳴を響かせた。あのキャップ生成こそ、まさに「具現化」だったのではないか。オカルトと科学の境界線で追い求めていた「脳の未知なる力」の、あまりに鮮烈な表現。教授はあくまで思考実験として語っているのだろうが、その言葉は、嵐の脳内深くにある確信に火をつけた。
教授はレポートを閉じ、「まあ、壮大な仮説だ。君の研究が、その可能性にわずかでも光を当てることを期待する。」と告げ、部屋を出ていく。
静寂が戻った研究室。嵐は一人残された。「具現化」。偶然のキャップ生成。教授の言葉が耳朶に残る。「あれは、本当に偶然だったのか?それとも…」
嵐はデスクの上の資料に目を落とした。意識を集中させようとすると、視界の端でペンのキャップが僅かに浮いた気がした。気のせいか?疲労か?しかし、その後の微細な現象が続くたび、教授の仮説と、自身の論文テーマ「脳波パターンと物質の相関関係」が、それらに不気味なリアリティを与えていく。
破滅への序曲:情報結晶化の兆し
そして、運命の歯車は、静かに回り始めた。ある日、淹れたてのコーヒーを口に運ぼうとした瞬間。カップの淵に付着した砂糖の結晶が、嵐の極限の集中と視線に反応し、ゆっくりと形を変え始めた。脳裏に浮かんだ「ダイヤモンド」のイメージに導かれ、複雑な多面体が形成される。ほんの一瞬の出来事。だが生成された物質が元の砂糖に戻った後も、嵐は息を呑んだまま動けなかった。
これは、疲労でも、錯覚でもない。彼の思考、脳波が、周囲の物質に干渉し、情報を「形」に変換している。まるで脳が設計図を描き、物質を「プリントアウト」しているかのように。あの偶然のキャップ生成、そして教授が語った「具現化」の片鱗――自身の脳内に眠る、未知なる力の存在を、嵐は確信した。そして、その力の核となるのは、物体の「形」や「構造」といった情報であり、それを脳内で保持・固定化するプロセス、すなわち「情報結晶化」こそが、この能力の根幹にあるのではないか、という予感を得た。
興奮と、同時に制御不能な力への畏れが押し寄せる。この力を意図的に操れるのか?どうすれば?
力、暴走:破壊の衝撃
嵐はデスクの上の、手近にあった小さな消しゴムに目をやった。真っ白な直方体。偶然ではなく、意図的に何かを生成してみよう。「情報結晶化」のプロセスを意識的に。論文で扱った脳波パターンを、自分自身で体現するのだ。
消しゴムに視線を固定し、意識を研ぎ澄ます。指先が熱を帯び、周囲の空気がわずかに歪んだような感覚。脳の中がざわめき、脈動が高まる。先ほどまでの微細な現象とは比べ物にならない、強烈なエネルギーの流れを感じる。
次の瞬間――
小さな、真っ白な消しゴムが、弾けるように爆散した。
凄まじい衝撃音と共に、ゴムの破片が研究室中に撒き散らされる。ただ粉々になったのではない。破片の一つ一つが異常な速度で飛び散り、壁や棚にめり込み、微かな焦げ付きを残した。そして、その一瞬、周囲の全ての音が吸い込まれたように静寂に包まれ、空気が異様に冷たくなったように感じた。
嵐は、飛び散った消しゴムの残骸を見て、呆然と立ち尽くした。意図した「形作る」という作用ではない。対象を「破壊する」という、真逆の結果。そして、その破壊は、物理法則を無視したかのような異常性を含んでいた。
能力が、暴走した。
終幕:そして、始まりへ
息を吐き、集中を解くと、張り詰めていた空気が緩み、異様な冷たさや静寂も消え去った。指先の熱も引いた。しかし、デスクの上に散らばる消しゴムの破片と、壁に残る微かな傷跡が、今起こったことが紛れもない現実であることを突きつけてくる。
「具現化」という希望の力。情報結晶化による「生成」。しかし、それは同時に、制御できない「破壊」の衝動をも孕んでいたのかもしれない。
なぜ偶然のキャップ生成や砂糖の時は形を作ろうとした?なぜ消しゴムは破壊された? 力のトリガーは? そして、この異常な破壊は…? 能力の存在は確信できたが、それを自在に操るどころか、その性質すら全く理解できていなかった。途方もない力の片鱗に触れた高揚感は、制御不能な危険性への底知れぬ畏れに塗り替えられた。
そんな彼の生活に、安らぎを与えてくれる存在があった。大学の関連施設に勤務する、数歳年上の女性医師。彼女の知的な視線と落ち着いた物腰は、嵐にとって大きな安らぎだった。彼女との会話は、孤独になりがちな彼の研究生活に、温かい光を灯してくれた。
しかし、その安らぎの裏で、嵐の脳内では、制御不能な力への畏れと、それを理解し操りたいという渇望が渦巻いていた。偶然生まれた「生成」の力。意図せず引き起こした「破壊」。そして、その力の根幹にあるらしい「情報結晶化」のメカニズム。その全てが、未知の謎に包まれていた。
脳に現れた、不可解な力という名の「叫び」。能見嵐の、異端の研究と、自身の身体に宿った未知なる力――創造と破壊の可能性を秘めた力と、それを巡る謎への探求が、今、静かに、しかし確かに幕を開けたのだった。
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