第1話 出会いと始まり
終業式後のざわつく教室の中で、柔らかな声が僕の耳に届いた。
「秋良くん、昨日配られた書類、回収したいんだけど……」後ろを振り返るとそこにはクラス委員の山崎由衣が立っていた。肩まで伸びた髪をふわりと揺らしながら、手にしたファイルを小さく抱えている。
「あ、はい。えっと……」
秋良はあわててカバンの中を探り始めた。ぐちゃぐちゃに突っ込まれたプリントの山の中から、目当ての書類を掘り出す。
「ごめん、ちょっと待ってください……」
「うん、大丈夫。ゆっくりでいいよ」
由衣はにこりと微笑み、僕の机の前でおとなしく待っていた。その視線がふと、僕の机の上に置かれていたiPadに向く。
電源が入れっぱなしだったのか、画面は明るいまま。由衣がそっと手を伸ばし、スリープにしようとしたそのとき――
「……『北海道』『寝台特急』『札幌』……?」
画面いっぱいに並ぶ細かな文字。日にちと路線名、時刻、乗り換え、宿泊場所までびっしりと書き込まれた旅の行程表が、そこには表示されていた。
由衣は小さく目を見開き、思わず声を漏らす。
「すごい……これ、旅行の計画……?」
その瞬間、ようやく僕は書類を見つけて顔を上げた。
「あ、これです。どうぞ」
「ありがとう。……あの、さっき少しだけ端末の画面が見えちゃって。ごめんね、勝手に見たわけじゃないんだけど……」
「……ああ、大丈夫です。電源つけっぱなしだったから……」
僕は少し恥ずかしそうに目を逸らしたが、由衣はにこにこと優しく笑った。
「これって、夏休みに行く予定なの?」
「……はい。たぶん、一人で。でも、まだ計画中で」
「北海道、寝台特急……ふふっ、本格的だね。なんか、映画みたい」
由衣は、興味深そうに端末の画面をもう一度覗き込んだ。
「秋良くんって、旅が好きなんだね。クラスではあんまり聞いたことなかったけど……なんだか、素敵だなって思った」
まっすぐにそう言われて、僕の胸の奥で、何かが少しだけ動いた気がした。 「……まぁ、自己満足みたいなもので。行けるかどうかもわからないですし」
「ううん、素敵だよ。私もね、写真が趣味で。風景を撮るのが好きなの」
「写真、ですか?」
「うん。写真部に入ってるんだけど……最近ちょっと、困ってて」
由衣は少し苦笑いを浮かべながら、窓の外に目をやった。
「近所の公園とか、河川敷とか、いろんなところに撮りに行ってるんだけど……もう、あんまり撮る場所がなくなってきちゃって。似たような風景ばっかりになっちゃってるの」
「そうなんですか……」
「でも、遠くに行こうとすると、電車の乗り方もよくわからないし、そもそも一人で遠出ってちょっと勇気がいるっていうか……」
由衣は、恥ずかしそうに笑った。
「だから……もし迷惑じゃなければだけど、今度の旅に、私も連れてってくれないかな?」
「え?」
不意に差し込まれた言葉に、僕は思わず動きを止めた。
「だって、秋良くんの計画、すごく面白そうだったし。それに……“いい一枚”が撮れる気がするんだ。私、一枚だけでもいいから、心から『撮れてよかった』って思える写真を、夏の間に撮りたくて」
僕は戸惑いながら、もう一度端末の画面を見た。マニアックな路線、マイナーな乗り継ぎ。観光地とは言い難い地方の駅名が並んでいる。
「……でも、ほんとにマイナーですよ。観光地とかじゃないし、電車ばっかりで、移動時間も長いし、由衣さんには……退屈かもしれませんよ?」
「ふふっ、私は『観光』じゃなくて、『風景』を撮りたいの。きれいな空とか、広がる田んぼとか、都会じゃ見られない風景、そういうの」
由衣は、静かに、でもはっきりと答えた。
「秋良くんが見る風景、私も一緒に見てみたいって思った。……だめ、かな?」
彼女のまっすぐな瞳に見つめられ、僕は視線を逸らすこともできなかった。
「……そんなふうに言ってくれる人、初めてです。わかりました。一緒に、行きますか」
「ありがとう。楽しみにしてるね」
「じゃあ、旅行の打ち合わせしたいから、今日僕の家来れる?」
「あー...ちょっと美波と約束があるから、土曜日でもいい?」
「全然大丈夫。じゃあ僕の家が町田にあるから、土曜日の12時、町田駅に待ち合わせできる?」
「OK。じゃ、予定に入れとくね。」
由衣はほっとしたように笑い、丁寧に頭を下げた。
その笑顔を見たとき、僕の胸の中で、ほんの少しだけ「旅」が現実に近づいた気がした。
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なんかデートみたいな雰囲気になってて青春ですね〜!僕もこんな人1回見てみたいものです。さて、次回はそこになんと、あるギャルが乱入していきます!どんな性格なのか、そしてこの旅行はどうなっていくのか、この先の展開が楽しみですねぇ〜!
P.S. ちなみに今執筆者本人は高一ですが、写真部には入ってないよ。
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