鉄道と写真と、三人旅。

nagitoro

プロローグ



7月25日、午前10時半。東京都世田谷区、終業式直後の某高校の教室。


終業式も終わり、夏休みはもう目の前。教室の中はクラスメイト達でガヤついていた。

「ねえねぇ、今日原宿行く?」
「いいじゃん行こ行こ〜!」
「夏休み、江ノ島行く?」
「海もいいねぇ〜!」

20XX年、7月下旬。東京・世田谷区にある某高校の教室は、終業式を終えた解放感で熱気に包まれていた。生徒たちは夏の予定に胸を弾ませ、教室のあちこちで笑い声が響く。

その中でひときわ明るい声で、教室に響き渡る言葉があった。

「じゃ、8月31日に渋谷のハチ公前集合ねー!」

それはクラスで一番の人気者――白坂美波の声だった。
金髪がよく似合うギャル系女子で、男女問わず人気のムードメーカー。告白されても全て断っており、インスタやTikTokのフォロワーは10万人超とも噂される。

「ウオーー!!」
「絶対行くー!」

男子たちの歓声や女子たちの笑顔が、美波がどれだけクラスに信頼されているかを物語っていた。

「美波ちゃん放課後空いてる?新作スタバ出たらしいけど...」

柔らかく声をかけたのは、白坂美波の幼なじみ――山崎由衣。
白坂に次ぐ人気者だが、彼女とは対照的におっとりとした性格で、成績は学年上位。クラス委員を務め、先生や地域からの信頼も厚い。インスタは美波と共同で運用していて、フォロワーは8万人を超えているとか。冷静で頼れる存在として、男女問わず人気を集めている。

「マジ? じゃあ今日行こっか」
「OK〜、じゃあ放課後ね!」

この二人が話せば、自然と会話の輪が広がり、クラスの空気が一変する。
彼女たちは、まさに“中心”にいる存在だった。そして、それに続いてクラス内が団結して行った。……一部を除いて。


その“一部”が僕、本庄秋良(ほんじょうあきら)だ。

教室の片隅、自分の席で黙々と学校のiPadに向かっている。机の上には、くたびれた時刻表、新幹線の写真が載った雑誌、色褪せた観光ガイドブック。そして、その脇に広げられた旅の学校のiPad。

「……あ、ここ行きたいな。でも、乗り継ぎが厳しいか……」

周囲の会話とは別の世界で、僕は一人、日本地図とにらめっこしていた。
鉄道が好きだ。旅が好きだ。
だけど、クラスで「鉄道好き」と自己紹介したとき、周囲の反応は薄かった。
この学校に鉄道研究部なんてものは存在しないし、趣味の話ができる相手もいない。

「旅行が好き」と言っても、実際に行ったのは有名な観光地をいくつかだけ。
ほとんどの景色は、Googleストリートビューで眺めただけだ。
だから僕は、自分を「旅行好き」と胸を張って言うことすらできない。

ただ、ひとつだけ確かなのは――
このiPadの中だけは、誰にも邪魔されない“旅”が続いているってことだ。               






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ここまで読んでいただきありがとうございます!⭐︎やレビュー、コメントを書いてくれると嬉しいです!今後の励ましとなります!これから数章にわたり連載していくのでよろしくお願いします!!

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