第26話 狙われた英雄

「あいつ、最近やたら調子乗ってない?」


「模試でも一位で、体育祭でも目立ってたろ。女連中にもチヤホヤされてさ」


「中学の頃、地味だったくせによ。なんかムカつくんだよな――」


放課後の裏庭、人気のないベンチに数人の男子が集まっていた。

彼らは誰もが「その他大勢」の存在。だが、そんな彼らにとって、

今の悠真の急浮上は、苛立ちと劣等感の象徴だった。


その矛先は、当然ながら、悠真本人へと向いていく。


「ちょっとキツめに言ってやればいいんだよ。“身の程を弁えろ”ってさ」


その言葉に、悪意と憂さ晴らしの笑い声が重なる。


 ◇


一方その頃、悠真は職員室前の廊下で、掲示板に貼られたプリントを見ていた。


「体育祭の写真展示……」


そこには、リレーや応援風景などのスナップが並んでいる。

その中に、自分とひよりが映っているものがいくつかあった。


(……俺、結構目立ってるな)


苦笑混じりに視線を外そうとしたそのとき――


「先輩っ!」


軽快な声とともに、七瀬ひよりが小走りに近づいてくる。

彼女の手には、またしても包み紙に包まれたお弁当。


「今日も、お疲れさま弁当ですっ。がんばった先輩に、差し入れ!」


「……ありがとう。でも、毎日は悪いだろ」


「いいんですっ! 私が勝手にやってるだけですから♪」


朗らかに笑うひよりの瞳に、悪意など一片もない。

それがわかっているからこそ、悠真は断れなかった。


だが、その姿を――影から見ていた者たちがいた。


 ◇


数分後。

帰り道。学校から少し外れた路地を歩く悠真とひより。


「今日のは、ミニハンバーグですっ。先輩、前に好きって言ってたから」


「覚えてたのか……」


「はいっ。先輩のこと、ちゃんと見てますから♪」


ひよりが言った直後――


「へぇ、モテモテだな、転校生」


後方から声がかかる。

振り向いた先にいたのは、昼に悪意を交わしていた男子たち。

3人組が、やや睨むような目で近づいてくる。


「こんなとこでイチャイチャかよ。お似合いじゃん?」


ひよりが少し怯んで後ずさる。

悠真はすぐに一歩前へ出て、彼女を背中でかばった。


「……何の用だ」


「ちょっと話がしたいだけだよ。お前さ――最近、調子乗ってんじゃね?」


「別に。俺は、やるべきことをやっただけだ」


「へぇ、じゃあ“やりすぎた”かどうかは、俺らが決めていいよな?」


その言葉とともに、一人が軽く制服の袖をつかもうとする。

悠真が動くより先に――


「やめてくださいっ!」


ひよりが割って入った。


「先輩は、何もしてません! ただ、がんばってるだけなんですっ!」


涙ぐみながら叫ぶひよりの声に、一瞬、男たちはたじろいだ。

だが次の瞬間――


「なぁんだ、姫のお出ましかよ。マジで守ってやってんのかよ、お前」


その瞬間、悠真の瞳の奥が冷えた。


「……それ以上、何か言ったら。黙ってないぞ」


重く、低い声だった。

相手の3人は一歩引く。そこに明確な“殺気”があったからだ。


「……ちっ。行こうぜ」


悪態をつきながらも、3人は足早にその場を去っていく。


「だ、大丈夫ですか……?」


「……お前のほうこそ。無茶するなよ」


「でも……私、見てられなかったんです。先輩が、また嫌われたりしたらって……」


そう言って俯くひよりに、悠真はゆっくりと頭を撫でた。


「ありがとな、ひより」


その手のぬくもりに、ひよりの頬が赤く染まる。


「――は、はい……!」


 その一方で、放課後の校舎上階。

窓からその様子を見ていた理央の目が細められていた。


(……また、仮面が剥がれた)


だがその仮面の裏にある本当の姿に、理央は確信を深めていく。


(あなたは――本当に、守る人を選べる人)

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