第25話 交差するまなざし
「――ふうん、あの子。悠真くんにお弁当、渡してたんだ」
昼休み、校舎裏。
星乃美羽は自分のスマホを閉じ、軽く舌打ちをした。
クラスメイトが偶然撮った写真――悠真と七瀬ひよりが並んでお弁当を囲んでいる姿。
笑顔で話すひよりの表情、そしてそれを見てわずかに口元を緩めている悠真。
(何、それ……あんな顔、私には見せたことなかったくせに)
胸の奥がじりじりと焼けるような感情に支配される。
“かつて”自分の隣にいた少年が、今は別の誰かの前で柔らかく笑っている――
それは、かつての自分の居場所を失ったことを突きつけられる感覚だった。
「……負ける気なんて、ない」
美羽の瞳は鋭くなる。
過去の関係を悔いる気はなかった。だが、今だけは――取り戻したいと強く思った。
◇
一方、図書室。
理央は静かな空間で、ページをめくりながらも思考を巡らせていた。
七瀬ひより。名前は知っていたが、ここまで悠真と近づいているとは思っていなかった。
(彼女のような……まっすぐで、嘘のないタイプ。あの人は、惹かれるだろうな)
理央の胸にも、わずかにざわつくものがあった。
けれど、彼女は焦りではなく“自問”を始める。
(私は……彼に対して、どう接している? 信頼、支え合い。そう思っていたけど)
思い返すのは、先日の体育祭。悠真が見せた冷静な判断と行動。
そしてそれを真っ先に理解し、信じようとした自分自身。
(私は、あの人の“仮面”じゃなく、“本質”を見てきた。だからこそ、焦らなくていい)
静かにページを閉じると、理央はふっと微笑んだ。
(勝つとか負けるとかじゃない。“信じ続けること”が、私にできること)
彼女は立ち上がり、窓の外の青空を見上げた。
◇
――放課後。校門前。
悠真は何とはなしに空を仰いでいた。
体育祭以来、周囲の視線は徐々に変わってきている。
好奇の目、賞賛の目、そして――一部の嫉妬の目。
(仮面のままなら、波風は立たなかったはずなのに……)
だが、心の奥底では――
「仮面を破ってでも、信じてくれる誰か」がいることに、どこかで救われてもいた。
「せんぱーい!」
勢いよく駆けてくる声。ひよりだった。
そして少し離れた場所、美羽がじっとこちらを見つめていることにも、悠真は気づいていた。
さらに背後の廊下からは、理央の気配も近づいてきている。
三人のまなざしが、交差する。
それぞれに異なる想いを抱えながら――
悠真という一人の少年に、視線を向けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます