第25話 交差するまなざし

「――ふうん、あの子。悠真くんにお弁当、渡してたんだ」


昼休み、校舎裏。

星乃美羽は自分のスマホを閉じ、軽く舌打ちをした。

クラスメイトが偶然撮った写真――悠真と七瀬ひよりが並んでお弁当を囲んでいる姿。

笑顔で話すひよりの表情、そしてそれを見てわずかに口元を緩めている悠真。


(何、それ……あんな顔、私には見せたことなかったくせに)


胸の奥がじりじりと焼けるような感情に支配される。

“かつて”自分の隣にいた少年が、今は別の誰かの前で柔らかく笑っている――

それは、かつての自分の居場所を失ったことを突きつけられる感覚だった。


「……負ける気なんて、ない」


美羽の瞳は鋭くなる。

過去の関係を悔いる気はなかった。だが、今だけは――取り戻したいと強く思った。



 一方、図書室。


理央は静かな空間で、ページをめくりながらも思考を巡らせていた。

七瀬ひより。名前は知っていたが、ここまで悠真と近づいているとは思っていなかった。


(彼女のような……まっすぐで、嘘のないタイプ。あの人は、惹かれるだろうな)


理央の胸にも、わずかにざわつくものがあった。

けれど、彼女は焦りではなく“自問”を始める。


(私は……彼に対して、どう接している? 信頼、支え合い。そう思っていたけど)


思い返すのは、先日の体育祭。悠真が見せた冷静な判断と行動。

そしてそれを真っ先に理解し、信じようとした自分自身。


(私は、あの人の“仮面”じゃなく、“本質”を見てきた。だからこそ、焦らなくていい)


静かにページを閉じると、理央はふっと微笑んだ。


(勝つとか負けるとかじゃない。“信じ続けること”が、私にできること)


彼女は立ち上がり、窓の外の青空を見上げた。



 ――放課後。校門前。


悠真は何とはなしに空を仰いでいた。

体育祭以来、周囲の視線は徐々に変わってきている。

好奇の目、賞賛の目、そして――一部の嫉妬の目。


(仮面のままなら、波風は立たなかったはずなのに……)


だが、心の奥底では――

「仮面を破ってでも、信じてくれる誰か」がいることに、どこかで救われてもいた。


「せんぱーい!」


勢いよく駆けてくる声。ひよりだった。

そして少し離れた場所、美羽がじっとこちらを見つめていることにも、悠真は気づいていた。

さらに背後の廊下からは、理央の気配も近づいてきている。


三人のまなざしが、交差する。


それぞれに異なる想いを抱えながら――

悠真という一人の少年に、視線を向けていた。

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