第11話 星乃美羽、来訪
月曜日の朝。教室の空気がざわついていた。
その理由は明白だった。黒髪ロングに清楚な佇まい、モデルのようなスタイルと品のある笑顔――転入生、星乃美羽の存在だ。
「今日から皆さんと一緒に勉強させていただきます、星乃美羽です。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀。凛とした声。完璧すぎる転入生に、クラスは一瞬で騒然となる。
「うお、あのレベルの美人が転校してくるとか漫画かよ」
「俺、絶対話しかけるわ」
「なんか育ち良さそう……お嬢様って感じ」
そんな周囲のざわめきの中、美羽の視線が一人の生徒を捉える。
天城悠真。
そして、その瞬間。
理央は見逃さなかった。美羽の笑顔が、ほんの一瞬だけ――鋭く、冷たいものに変わったことを。
(今の……なんなの?)
美羽の眼差しは、まるで仇でも見るかのようだった。だが、次の瞬間にはまた柔らかな微笑みに戻り、彼女は空いていた前列の席へと歩いていった。
その背を、悠真は特に何も言わずに一瞥しただけで、再び机に視線を戻す。
(知り合い……? それとも何かあった?)
理央の中で、得体の知れない好奇心が膨らんでいく。
◇
休み時間。廊下に出た悠真に、美羽が歩み寄る。
「久しぶりね、悠真くん」
誰にも聞こえないような声。だが、その口調には棘があった。
「……星乃さん」
「名前、呼び捨てにしてくれないの? あの頃みたいに」
「……随分と印象が違ったから、別人かと思ったよ」
「そう。私の方は、最初から“あなたを忘れてなんていない”けど?」
その言葉に込められたものが、静かな怒りか、それとも悲しみかはわからない。
「でも……こうしてまた会えて、ほんとうに嬉しいわ」
笑顔のまま、美羽は悠真の耳元で囁く。
「――“謝る気は、ないのよね?”」
悠真の表情は変わらない。だが、その目だけが一瞬、鋭く細められる。
「誤解は解く気もないなら、そのままでいい」
「ふふ、やっぱりあなたって冷たい」
美羽はふわりと笑い、何事もなかったようにその場を去っていく。
その様子を、陰から見ていた理央は、さらに混乱していた。
(どういう関係……? 明らかにただの再会じゃない)
そして何より、あの悠真が一言も言い返さなかったことが、理央の胸にひっかかっていた。
◇
放課後。
理央は図書室に向かう悠真を追うことも、美羽に話しかけることもせず、自分の机に突っ伏したままだった。
彼の周囲には、まだ秘密が多すぎる。
ただ一つだけ、確信していた。
(天城悠真は、ただの“無能なモブ”なんかじゃない)
そして今――その彼を見つめる“もう一人の目”が、教室に加わった。
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