第4話 スキル「ハヤテ」発動

「……セ、セレナ」


 恐る恐る声をかけると、彼女はぎくりと肩を震わせた。


「……な、なんでしょうか?」


 朝の出来事を思い出したのか、彼女の頬があっという間に真っ赤に染まっていく。


「あのさ……さっき言ってた『防壁が崩れた』って、あれってどういう意味? もしかして……戦争でも起きたのか? それと、『魔物』ってのはなんだ?」


 俺の問いに、セレナは一瞬だけ視線を落とし、ため息を小さくついた。

「戦争ではありませんが……状況は良くないです」



 彼女の声色が、徐々に重くなっていく。


「数日前、この辺りに大雨が降ったんです。とんでもない豪雨でした。その影響で山が大規模に崩れてしまって……」


 セレナはゆっくりと語り始めた。


「その土砂崩れで山の高さすら目に見えて低くなってしまいました。村へと通じる道もすべて崩れてしまい、外部の街と繋がる主要ルートが完全に絶たれてしまったんです」


「……ってことは、この村は……」


「ええ。今は孤立した状態です。なんとか村の中でやりくりしてますけど……食糧も少なくなってきました」


 彼女はスプーンを両手でぎゅっと握りしめながら、そっと言葉を継いだ。


「そして魔物たちは……普段は山奥に潜んでいて、人里に出てくることはなかったんです。でも今は食べ物もないし、棲み処も崩れてしまって……」


「だから村に降りてきてるのか」


 そう言って頷くと、セレナも小さくうなずいた。


「はい。ここ数日で魔物の出現が目に見えて増えています。防壁はその魔物たちを防ぐために、急ごしらえで設けたもので……」


 彼女のかすかに震える声を聞いていると、村に来て最初に感じたあの温かいスープの香りすら、遠いものに思えてきた。


「……想像以上に深刻なんだな」


「……はい。今のところはなんとか持ちこたえていますが、正直に言って私たちだけでは、いつまで耐えられるか……」


 静かに、それでいて確かに絶望の色が混じった言葉だった。


 俺はゆっくりと立ち上がった。


「な、なんですか……?」


 セレナが驚いたように俺を見つめる。


「そこに……案内してくれ」


「でも……あなた、さっきまで倒れていたじゃないですか。無理をしたら──」


「でもさ、みんな俺のために頑張ってくれたんだ。俺だって……何かしなきゃ」


 そう告げると、セレナはしばし言葉を失い、唇を噛みしめた。そして──


「……わかりました。では、こちらへ」




 セレナの後を追って村の外れへ向かうと、肌に緊張感がじわじわと染み込んでくるのを感じた。


 子供を含む住民たちは内側へと避難し、若い男たちが槍やツルハシを手に防壁の周囲に集まっていた。


 そして、遠目にも見えた。


 長く伸びた四肢。真っ白な体毛。血のように赤く、不気味に光る目。


 その目には、理性も感情もなく──ただ獲物を見つめる狩人のそれしかなかった。


 その姿は──正直、めちゃくちゃ怖かった。


 ──でも。


「……よく見たら、ただのデカい狼じゃね?」


 緊張していた自分がバカみたいに思えてきた。


 が──その瞬間。


「グルルルルル……!」


 そいつが俺を見た。


「……や、やっぱ違うわ。冗談、冗談だから! 来るなよ!」


「さっき逃げてきた人たちの話によると、二匹以上いるみたいです。しかも体が大きくて、動きも速いとか……今、あそこで応戦してる人たちが必死に食い止めてますけど──」


 セレナの言葉に視線を向けると、すでに数人の村の青年たちが息を切らしていた。


 額から汗が流れ落ち、手にした武器すら震えている。


 俺は拳をぎゅっと握った。


 この人たちは……見知らぬ俺を受け入れてくれて、温かいスープをくれて、知らないベッドで眠らせてくれた。


 俺が逃げてきた場所には、こんな温もりはなかった。


 助けなきゃ。


 そう思った。けど──


「……何かしなきゃ……でも、俺に……何が──」


 焦る気持ちだけが先走って、体は固まったまま動かない。


 ただ、見ていることしかできなかった。


 そのとき──


「……助けたい……!!」


 その言葉が、俺の口から飛び出した瞬間──


 目の前に、光る槍が浮かび上がった。


 ─ピコン。


【STATUS - ステータス】

名前:未設定

LV:1

体力:63/100

MANA:560/500

スキル:なし

特性:『アウトサイダー』

補正効果:『優しい心』に反応し、魔力を一時的に+500付与。


「……なにこれ?」


 思わず口にしてしまう。


 目の前に浮かぶのは、まるでゲームのステータス画面だった。



‐魔力が条件を満たし、自動成長が始まります。

‐レベル1 → レベル2 にアップしました。

‐スキル『ハヤテ』を習得しました。



「なんだよこれ……」


「危ないっ!!」


 セレナの叫びが響いた次の瞬間──


 真っ白な毛を振り乱し、魔物の一体が防壁を跳び越えてくる。巨大な体が、まるで影のように俺に覆いかぶさった。


 考えている暇はなかった。


『そうだ……悩んでる場合じゃない。ぶつかるしかねぇ!』


『スキル発動! ハヤテ!』


 すると、またどこからか声が聞こえた。


スキル発動!『ハヤテ(ハヤテ)』:なんでも綺麗に混ぜることができます。


……は? いまなんて?


 その瞬間、俺の両腕が──


「うわああっ!?」


 ブルルルルルルル!!!


 ドリルのように狂ったように回転し始めた。


 シュルルルルルルルル!!!


 腕が!


 腕が!!


 いや、これミキサーかよ!!!


「……これ、どう使うんだよおおおおおお!!!」


 渦巻く腕が止まらないまま、俺は混乱の渦中にいた。


 セレナは、横で呆けた顔で俺を見つめる。


「え、あの……今、なにを……?」


「わかんねえよ!! 俺にもわかんねえ!! なんだよこれマジで!」


 叫ぶしかなかった。


 この状況の中でも、腕はシュルルルルと音を立てて空気を裂いていた。


 すると、そのとき──そばにあった、誰かが放り出したらしい巨大な大ハンマーが目に入った。


 瞬間、ひらめいた。


「……そうか。混ぜられないなら、ぶっ叩けばいいじゃん」


 人々が恐怖に震え、誰かは悲鳴を上げて座り込んでいる。


 俺は唇をきつく噛みしめた。


 回転する腕を無理やりハンマーの柄に巻き付ける。


 その瞬間──


 カチッ。


 腕がピタリと止まり、ウォーハンマーが見事に固定された。


 そして──


「行くぞっ!! 風車……いや、トルネードハンマー!!」


 俺は風車のように、片手で大ハンマーを構えて──体を回転させた。


 ドン!


 ドン!


 ドン!!


 目の前の魔物に、容赦なくハンマーを叩き込んだ。


 白い毛の間から、重たい「ドスッ!」という音が連続して響いた。


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!!


 ハンマーを振るたび、魔物の体が地面に跳ね返る。


 巨大な体が、まるでおもちゃのようにゴロゴロと転がる姿は──


「……なんか、あれ、ちょっとおもちゃっぽく見えない?」


「うん、なんか……怖いっていうか、かわいそうになってきた……」


 人々の間にざわめきが広がった。


 最初こそ皆怯えていたが、魔物の首がぐるぐる回るのを見た瞬間、空気が妙な方向へ変わり始めた。


 いや、最初は助けてって言ってたよね!?


 そして、まもなく魔物は逃げ出した。


 ……


 静寂。


 そして──


「……うおおおおおおっ!!」


「勝ったああああああ!!」


「あの人が……魔物を!!」


 人々の歓声。


‐ 魔物を一方的に痛めつけたため、村人たちが魔物に同情し始めます。

 → MANA -100

‐ 【実績達成】初勝利!

 →MANA +500


‐ 魔物の脅威から村を救い、村人たちの称賛を受けました。

 → MANA +200

 その中心で、俺はしっかりとした大ハンマーを見下ろした。


「これ……意外と使えるスキルかも……?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元建築家ですが、今日も普通に異世界で構造設計しています。 @mitsuyama_keiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ