都市伝説研究会「仮虫文庫」2017年度調査報告書
調査対象:通称“リリッカ”と呼ばれる小型現象体について
提出日:2017年12月18日
執筆責任者:河嶋慎吾(仮名)(人文学部3年)
協力:都市伝説研究会「仮虫文庫」会員一同
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【0.はじめに】
本報告書は、2015年頃から国内各地で散発的に目撃されている未確認の小型存在「リリッカ」について、我々都市伝説研究会「仮虫文庫」が独自に集めた目撃証言・記録・物証を基にまとめた中間調査である。
本会では、都市伝説や未確認現象に関する事例収集・分析を通じて「語られる怪異」の構造を解明することを目的として活動しており、リリッカ現象はその特異性ゆえ、2016年度より継続的な調査対象となっている。
なお本報告書は学内サークル向けの一次資料であり、記述の一部には未検証・信頼度不明の情報が含まれることをあらかじめ断っておく。
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【1.名称と概要】
「リリッカ」という名称は、初期報告のいくつかに共通して記されていた擬音語・呼び名に由来する。
特定の学術的分類には属さず、「虫」とも「存在」ともつかない曖昧な輪郭を持つ。
■主な特徴(目撃事例からの抽出)
• 体長:1〜5cmが一般的、まれに10cm以上の痕跡も報告
• 外見:半透明の体殻。淡色の斑点、光沢のある翅、房状の感覚器を持つ
• 質感:ガラス、ゼリー、布などと形容されることが多い
• 行動:跳ねる/浮遊する/振動する/なにかを「見せよう」とする
• 音声:小動物のような「笑い声」、電子音、ささやき等
• 出現場所:押入れ、冷蔵庫、ベッド下、電灯、電化製品周辺など
• 残留物:羽片、白色繊維、香気(ラムネ・果実・金属的と形容)
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【2.調査経緯】
仮虫文庫の調査は、2016年2月、福島支部の旧会員が自身のアパートで「毛糸のような虫がしゃべった」と語ったことを発端としている。当初は幻覚・夢遊行動とみなされていたが、半年以内に同様の報告が4件集まったことから、調査対象として取り上げることとなった。
以下に、2016から2017年度における主な報告件数の推移を示す。
2015年:7件(主にSNSより収集)初期報告、断片的証言が多い
2016年:22件 北海道から九州まで全国的に広がる
2017年:34件 関東圏・中部地方での集中が目立つ
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【3.主な事例と傾向分析】
以下に代表的な報告事例を抜粋・要約する。これらは報告者の許可のもと匿名化し、本会が独自に再編集したものである。
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■事例A(神奈川県・女性・一人暮らし)
「夜中に台所でピチャ、ピチャと水音。小さな水玉のような虫がコンロの縁で跳ねていた。見た目はカワイイ。つぶさずにティッシュで包むと、一瞬、ふわっと香水の匂いがした。翌朝、包みは空だった。」
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■事例B(山形県・男性・中学生)
「部屋でリリッカを2匹見た。1匹は天井を這い、もう1匹は自分の影の中に潜った。何もされなかったけど、その日から自分の目が反射しなくなった気がする。鏡を見ると、いつもより1秒遅れて動く。」
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■事例C(大阪府・女性・家族4人)
「食卓での会話中、5歳の子どもが『さっきの人、どこいったの?』と質問。話を聞くと、冷蔵庫の中に小さい女の子がいて、『りりっかです』と挨拶したらしい。子どもは以後、その名前を一切口にしなくなった。」
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【4.リリッカの機能仮説】
報告群を分析することで、リリッカには以下のような「現象機能」があるのではないかと仮説される。
(1)接触誘導型記憶変調機構
リリッカとの接触後、一部の報告者に記憶の曖昧化・時間感覚の逸脱が見られる。鏡に映る自分が遅れる/影が別の動きをする等は、その例に当たる。
→【仮説】リリッカは人間の知覚に微細なズレを挿入し、「存在の輪郭」自体を撹乱する。
(2)情動拡張素子としての作用
リリッカ出現時、共通して「かわいらしさ」「甘さ」「懐かしさ」など、正の情動が先行する傾向がある。
→【仮説】リリッカは防衛本能を抑制し、記憶との親和性を高める「情動素子」として自己を偽装している。
(3)棲みつく/溶けこむ
繊維、布団、換気口、食物内部など、柔らかく緩やかな場所に宿る傾向がある。生き物というより「環境のざわめき」のような形容が多い。
→【仮説】リリッカは単体で存在するのではなく、生活空間に寄生して“物音”や“におい”というかたちで作用している。
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【5.比較分析:リリッカと既存の怪異】
リリッカ現象は従来の都市伝説や妖怪譚のいくつかと類似点を持つ。
比較対象 共通点 相違点
座敷童 家庭内に現れる/子どもとの親和性 リリッカには加護的側面が不明瞭
コックリさん 微細な声/擬人化される感覚 儀式性がない/出現条件が曖昧
ユメクイ 甘い香り/夢への侵入 リリッカは覚醒時にも目撃される
したがって、リリッカは既存の怪異カテゴリには明確に収まらない新種の都市現象と見なされる。
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【6.今後の調査計画】
現在までの調査では、リリッカの存在は“証拠”として残りにくく、主観的記憶と断片的な物理痕跡のセットでしか現れない。
今後は以下のようなアプローチが検討されている:
• 定点観測による香気・音響・光変動のデータ記録
• 幼児・高齢者へのインタビュー(異常語彙の出現記録)
• 羽片・繊維などの物証の収集と保存方法の確立
• 「リリッカ後」の心理的変化に関する継続調査
また、2018年度より、研究会内部で“リリッカ追跡班”を設置し、報告者への再接触と、出現時の室内環境調査を強化する予定である。
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【7.おわりに】
リリッカという現象は、既知の怪異とも科学的現象とも異なる「第三の何か」である可能性を持つ。
それは“虫”ではなく、“記憶の裏側に繁殖する、やわらかい齟齬”のようなものかもしれない。
仮虫文庫では、リリッカの存在をあくまで「記録されるべき奇妙な未確認感覚」として保持し、これからもその“ざわめき”を聞き逃さないよう努めたい。
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【附録資料】
• 観察スケッチ(会員Kによる)
• 香気分布マップ(2017年度版)
• 目撃証言の語彙分析チャート
• 不明羽根片の顕微写真(×80)
• 非公開報告「影の中の個体群」概要(閲覧制限あり)
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以上。
仮虫文庫2017年度調査報告・記録番号 No.17-LLK-47 完
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