【内部議論ログ】仮虫文庫部内非公開座談・リリッカ現象に関する観測と解釈(抜粋記録)

実施日時:2017年10月13日(金)18:00〜21:30

出席者(仮名):

• 河嶋(会長/記録)

• 二瓶(副会長)

• 宮浦(語彙分析担当)

• 橘(事例収集)

• 上里(視覚資料担当)

• 永澤(外部協力者・理工学部)



開始メモ


河嶋:とりあえず、これまで出てきた「リリッカ」関連の報告を今一度見直そう。来週の定例報告会に向けて、我々なりの立場を一つにしておきたい。


二瓶:あえて立場を曖昧にしたままというのも選択肢じゃない? 結論を持たないのも記録の形だろ。


宮浦:でも、現時点での「仮説中の仮説」くらいは整理しとかないと、あらぬ方向に怪談化するよ。



第一議題:「リリッカ」は単体か、群体か?


上里:写真を見る限り、繊維状のものはかなりばらついてる。単体で動いているというより、「ほどけながら動いてる」感じがする。


永澤:生物で言うところの外殻や羽根ではなくて、むしろ胞子とか断片的な運動素子に近い挙動なんじゃないか。集合して1個体に見えるけど、内部ではバラバラ。


河嶋:つまり、ヒトの視覚処理のほうが「個体」として認識してしまっている?


宮浦:擬人化の文脈が強いのはそのせいかも。報告者の多くが「かわいい」とか「名乗った」とか言うけど、実際には名前も形も与えられていない可能性がある。



第二議題:「リリッカ」の言語性・コミュニケーション性


二瓶:「名前を呼ばれた」とか「話しかけてきた」って報告、多すぎない? 本当にそう聞こえたのか、それともそう“思わされた”のか。


宮浦:一応、語彙分析では“甘い名前”が頻出してる。リリッカの他にも「リボ」、「ミミィ」、「シフォン」など。多くが少女的・菓子的な語感を持つ。


橘:逆に怖いよね。わざと“安心させる名前”を選んでる感じがある。言葉を選んでくる存在って、それだけで知性があるか、知性を模倣する意図があるってことじゃない?


上里:報告の中で「言葉の主が見えなかった」って証言がいくつかあるけど、あれ、リリッカの声じゃなくて、報告者の内的音声を誘導してるだけなんじゃない?


永澤:「部屋にいた何かが自分の声帯を使った」とも読める。音響現象って、意識が乗ると簡単に“声”に聞こえるし。



第三議題:「リリッカ」は記憶か現実か?


河嶋:報告の多くが「夜」「一人」「静かな場所」で起きてる。つまり、睡眠と覚醒のあわい。


永澤:一種の金縛り現象じゃないかな。脳波のREM/NREM切り替え期で、身体が動かない中、幻覚系の感覚が混ざる。


二瓶:でもさ、幻覚で済むなら、なんで報告者の多くが同じ羽根の質感や匂いまで描写してるの? そこが気持ち悪いんだよな。


橘:情報が空間に残ってる説は? たとえば家の中って、ずっと人が見たり聞いたりした記憶が、無意識のうちに空間に染みてる気がしてて。リリッカはそれを“かきまぜて出力する虫”なんじゃないかな。


宮浦:つまり「誰かの家の記憶のゴミ」を、可視化してくる媒介者? それ、わりとしっくり来る。



第四議題:「可愛い」という感情の設計意図


上里:そもそも、「かわいくなかったら」リリッカって気づかれてないと思う。


河嶋:つまり、あれは目撃者の知覚フィルターを通す前提で“造形されている”ということ?


宮浦:アニメのマスコットや、幼児向け絵本に出てきそうなフォルムで再構成される怪異……うーん、文化的バイアスの利用者かも。


二瓶:逆に言えば、それだけ“かわいくしないと接触できないほど異物”なんじゃ? 極端に不気味なものが、本来の姿なのかもよ。


永澤:こっちが見る準備できてないと、出てこない感じあるよね。あれ、見る側の知覚の解像度を測ってるんじゃないかな。



第五議題:映像・音声による記録不可能性


橘:羽片のスケッチ、これだいぶ人によって違うんだけど、それって記憶が上書きされてる?


上里:写真も撮ろうとして失敗した報告が多数。ピントが合わない、データが破損する、写ってないのに音だけ入る。


永澤:単純に可視光領域にない存在って可能性もあるけど、情報的存在=人の認識を通して初めて定着するものなら、機械には“乗らない”はず。


二瓶:じゃあ逆に、「リリッカが機械を通して見たもの」を想像できないかな。リリッカ視点の世界。


宮浦:それ、録画映像に映ってる“誰もいない空間”の中で、何かだけが動いてるやつじゃん。…怖いな、それ。



第六議題:「目的」について


河嶋:目的、あると思う? 接触しても実害があるとは言えないし。


二瓶:「見せること」自体が目的っぽい。何かを伝えるでも、変えるでもなく、ただ「見せた」という既成事実の構築。


橘:一種のログ生成者かな。人間の無意識を抜き書きして保存してるとか。


宮浦:でも、保存するにしては痕跡が曖昧。ならいっそ、リリッカ自身が“見られることで自分を生成している”説は?


上里:うわ……それ、何かがこっちを使って形を得ようとしてるってことじゃん。


永澤:つまり、「我々が見たリリッカ」という記録の中にしか、リリッカは存在できない。


河嶋:じゃあ、いまこの議事録も、リリッカの孵化装置になってるかもしれないってことだね。


(長い沈黙)



閉会メモ(河嶋記録)


時間も押しているため、議論はここまでとする。

方向性としては「記憶・知覚に巣食う小型現象」としての仮説が主流。

リリッカに意志があるか否かは未確定だが、「人間の感情を介して情報的な形を得る」構造はおおむね同意された。


今後は「記録できないものを記録する方法」についての実験的試行を進める予定。

具体的には、音声変換式の夢日記記録装置、低照度下での空間走査、香気成分の常時サンプリング等。



記録完:仮虫文庫内部議論ログ 2017.10.13

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