十七話目 魔界観光局設立!? ゆるふわ地獄ツアー

「サトウ、聞いたか? 最近、魔界に観光客が増えておるらしい」


「え……増えてるんですか? そもそも、魔界って観光地だったんですか?」


「今からなるのだ。我が決めた」


「また始まった……」


魔王ディオクレスは、魔界のことを“可能性の原石”と呼んで憚らない。

火山、毒沼、重力反転地帯、泣きわめく樹林、怒り狂う空──そのすべてを「魅力」と表現する視点のぶっ飛びっぷりは、もはや一種の才能である。


「そもそも人間界には“秘境巡り”という概念がある。ならば魔界の“暴風洞窟”や“永久逆さ滝”など、まさに観光向きではないか」


「……うちの世界観、観光で成立するんすかね?」


「される!」


「その即答、逆に怖いっす……」



というわけで――


「サトウ、観光局の責任者として任命する。名誉ある地獄旅の案内人、“ガイド・オブ・ザ・ヘル”だ」


「その称号、うっすら呪いかかってません?」


サトウの抗議も虚しく、魔王主導のもと、魔界観光局が爆誕。


まずは観光パンフレットを作ることに。


《ようこそ魔界へ!魔王直伝!灼熱と絶望の癒やし旅♪》

人気スポット紹介:

・血の池(温泉仕様)

……地熱で温めた鮮紅の湯。入浴時は専属ゴーレムが背中を流してくれる。

※ただし石です。


・空飛ぶ崖の上のカフェ

……注文後、崖の浮遊が停止するまでコーヒーは飲めない。スリル満点。

※命綱は別売。


・魔力のうねり渓谷トロッコツアー

……乗った瞬間“加齢10年”の呪いがかかるが、景色は絶景。


「いやもうほぼ観光拷問だよコレ!!」


「スリルだ。極上の非日常体験が観光の本質だろう?」


「“癒やし旅”ってどの口で言ってんすか!」


だが、思わぬ需要があった。

なんと──


「魔界って、インスタ映えするスポット多いんですね~!」


「自撮りしてる場合か! 後ろ! 今、火の鳥が飛んできてる!!」


人間界から流入した“命知らず系旅Vlogger”たちが、魔界観光に興味津々だったのだ。


その結果、SNSでバズるバズる。

「#逆さ虹」「#溶岩サウナ」「#地獄で一杯」など謎タグがトレンド入り。


「サトウよ……見ろ。このフォロワー数。わしのわらび餅写真が12万いいね……」


「何してんすか魔王様!?」


「魔界観光大使の責務だろう?」


その一方で、地元魔族たちも突然の観光ブームに大混乱。


「観光客が“骨の迷路”で迷子になってます!」


「“叫び岩”がうるさいって苦情来てます!」


「“闇の断崖”でプロポーズしてたカップルが今、喧嘩してます!」


もはや魔界は、**観光地化による混乱期(カオスタイム)**に突入していた。



「……サトウよ、観光とは難しいな」


「そもそも魔界を“観光地”にしようとしたのが間違いなんすよ……」


とはいえ、経済的にはなぜか潤った。

“魔界限定おみやげ”や“魔王様の直筆サイン入りマグマ岩”などが異常に売れている。


結果。


「ディオクレス様、観光収益で魔界の財政が黒字に!」


「なにっ!?」


「ついでに“闇の温泉饅頭”が年間スイーツ大賞にノミネートされました!」


「どこの世界も、最終的に饅頭が勝つのか……!」


かくして、魔界観光はひとまずの成功を収める。


だが、サトウは知っていた。


「そのうち“第二次インスタ観光戦争”とか始まるんじゃないですかね……」


その予感が的中するのは、ほんの数日後のことである。

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