八日目 魔王サイン対決!
魔王ディオクレスと代行魔王ルシフェッタ。
二人の争いは、城の玉座をめぐる熾烈な――いや、どうでもいい勝負の応酬となっていた。
その舞台は、ついに「サイン」にまで及ぶ。
「よいか、サインとは――魔王たる者の“威厳”と“知性”、そして“クセ”が如実に表れる、魔界の顔である!」
「ええ、だから私は自分のサインに、ルーン文字とドラゴンの翼をあしらいました!」
「余計な飾りは敗北への道! 俺のサインは“ディ”の一文字に、でかい雷マークを添える。インパクト勝負だ!」
「お子様の落書きでは?」
「魔王のカリスマとは、子ども心を掴むことだッ!」
「なるほど、浅いですね!」
そんな具合で今日も魔王城はうるさい。
◆
「では、今回のルールを説明します」
進行役はまたしても勇者ユウト。すっかりイベント司会として板についてきた。
「ルールその1! “3秒以内に書き終えること!”」
ディオクレスが勝ち誇るように親指を立てた。
「へっ、これなら俺のサインが有利だな。“ディ”一文字で終わるからな!」
ルシフェッタは額に青筋。
「その“ディ”が平仮名だったらどうします?」
「まさかの“でぃ”!」
「ルーンじゃないのかよ!」
「ルールその2! “審査員による人気投票!”」
審査員席には、ゴブリン兵、バンシー書記官、謎の客人(常連の勇者パーティ)といったカオスな面々が座る。
「ルールその3! “用紙は一枚のみ、失敗してもやり直し不可!”」
「緊張感あるなあ!」
「やってやろうじゃない!」
◆
最初はディオクレスのターン。
「俺の魔王力、しかと見よ!」
片手を掲げ、魔力でペンを浮かせ、空中でくるりと回転。
「“ディ(雷)”!」
カリッと紙を焦がしながら、まさに雷が落ちる勢いで一筆書き。サインは――
「ディ」
(まじで“ディ”一文字)
その下に稲妻風の装飾がビリビリ。
「どうだ! 俺の魔王感、炸裂だろ!」
観客席のゴブリンがうなった。
「短い! そして……なんか、腹立つ字面!」
「クセになる!」
続いてルシフェッタ。
「これが、代行魔王たる私の“品格”です」
彼女はすっと深呼吸をし、筆ペンで描くように滑らかに。
「ル」「シ」「⚖(天秤のマーク)」と、たった3秒で書き上げた。
「ルーン文字と、魔界法典を象徴する天秤を添えました。品と威厳の融合です!」
「それ反則スレスレじゃねえ!?」
「天秤は一筆です!」
審査員たちはざわついた。
「……う、美しい」
「サインというより、署名って感じで高貴だ!」
「就活で受かりそうなサイン……」
「やめろ現実的な評価!!」
◆
投票の結果は――
「4対3で、ルシフェッタさんの勝利ー!」
「なぜだああああああああ!! “ディ”が負けるなんて……」
「そもそも略称すぎて意味不明でした。『ディ』って誰ですか?」
「俺だああああ!!」
ディオクレス、敗北。
◆
その夜。
書庫の片隅で、一人ペンを走らせる影があった。
「……“ディオクレス・ザ・マオー”……このぐらい書いてもいいか……?」
「少しだけ伸びましたね」
「うわっ! ルシフェッタ!? いつの間に!」
「魔王サイン、練習中ですか? 次は“魔王のサインを使った商品開発対決”が予定されてますので」
「いつの間にそんなスケジュールを……」
「全部、魔王業務ですので」
「俺、もう書類関係じゃ勝てない気がしてきた……」
こうして、魔王サイン戦争は、文具売り場を巻き込んで新たなステージへと向かうのだった。
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