八日目 魔王サイン対決!

魔王ディオクレスと代行魔王ルシフェッタ。

 二人の争いは、城の玉座をめぐる熾烈な――いや、どうでもいい勝負の応酬となっていた。


 その舞台は、ついに「サイン」にまで及ぶ。


「よいか、サインとは――魔王たる者の“威厳”と“知性”、そして“クセ”が如実に表れる、魔界の顔である!」


「ええ、だから私は自分のサインに、ルーン文字とドラゴンの翼をあしらいました!」


「余計な飾りは敗北への道! 俺のサインは“ディ”の一文字に、でかい雷マークを添える。インパクト勝負だ!」


「お子様の落書きでは?」


「魔王のカリスマとは、子ども心を掴むことだッ!」


「なるほど、浅いですね!」


 そんな具合で今日も魔王城はうるさい。



「では、今回のルールを説明します」


 進行役はまたしても勇者ユウト。すっかりイベント司会として板についてきた。


「ルールその1! “3秒以内に書き終えること!”」


 ディオクレスが勝ち誇るように親指を立てた。


「へっ、これなら俺のサインが有利だな。“ディ”一文字で終わるからな!」


 ルシフェッタは額に青筋。


「その“ディ”が平仮名だったらどうします?」


「まさかの“でぃ”!」


「ルーンじゃないのかよ!」


「ルールその2! “審査員による人気投票!”」


 審査員席には、ゴブリン兵、バンシー書記官、謎の客人(常連の勇者パーティ)といったカオスな面々が座る。


「ルールその3! “用紙は一枚のみ、失敗してもやり直し不可!”」


「緊張感あるなあ!」


「やってやろうじゃない!」



 最初はディオクレスのターン。


「俺の魔王力、しかと見よ!」


 片手を掲げ、魔力でペンを浮かせ、空中でくるりと回転。


「“ディ(雷)”!」


 カリッと紙を焦がしながら、まさに雷が落ちる勢いで一筆書き。サインは――


「ディ」

(まじで“ディ”一文字)

 その下に稲妻風の装飾がビリビリ。


「どうだ! 俺の魔王感、炸裂だろ!」


 観客席のゴブリンがうなった。


「短い! そして……なんか、腹立つ字面!」


「クセになる!」


 続いてルシフェッタ。


「これが、代行魔王たる私の“品格”です」


 彼女はすっと深呼吸をし、筆ペンで描くように滑らかに。


「ル」「シ」「⚖(天秤のマーク)」と、たった3秒で書き上げた。


「ルーン文字と、魔界法典を象徴する天秤を添えました。品と威厳の融合です!」


「それ反則スレスレじゃねえ!?」


「天秤は一筆です!」


 審査員たちはざわついた。


「……う、美しい」


「サインというより、署名って感じで高貴だ!」


「就活で受かりそうなサイン……」


「やめろ現実的な評価!!」



 投票の結果は――


「4対3で、ルシフェッタさんの勝利ー!」


「なぜだああああああああ!! “ディ”が負けるなんて……」


「そもそも略称すぎて意味不明でした。『ディ』って誰ですか?」


「俺だああああ!!」


 ディオクレス、敗北。



 その夜。


 書庫の片隅で、一人ペンを走らせる影があった。


「……“ディオクレス・ザ・マオー”……このぐらい書いてもいいか……?」


「少しだけ伸びましたね」


「うわっ! ルシフェッタ!? いつの間に!」


「魔王サイン、練習中ですか? 次は“魔王のサインを使った商品開発対決”が予定されてますので」


「いつの間にそんなスケジュールを……」


「全部、魔王業務ですので」


「俺、もう書類関係じゃ勝てない気がしてきた……」


 こうして、魔王サイン戦争は、文具売り場を巻き込んで新たなステージへと向かうのだった。

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