七日目 代行魔王VS本物魔王
魔界七湯のひとつ、地獄谷温泉街より帰還した魔王ディオクレスは、すでに悟っていた。
「……なぜ、俺の席に誰か座っているんだ?」
玉座に堂々と腰掛け、脚を組む女性。彼の側近であり、補佐官でもあるルシフェッタが、なんと魔王のマントを羽織っていた。
その背中には金糸で大きく刺繍されている。
「DAIKOU MAOU」(代行魔王)
「どういうことだ、ルシフェッタ。俺が湯けむりのなかで“地獄の蒸し卵”をむいている間に、何が起きた?」
「ご帰還、ご苦労さまです、“元”魔王ディオクレス様」
「敬語で煽るな」
そのとき、城のホールに居合わせた魔族たちは、明らかに微妙な空気で気配を消していた。
ゴブリン将軍が目をそらし、バンシー書記官が震えながら書類を落とす。
中でも、勇者ユウト(なぜか常駐中)が、ポップコーンをかじりながら一言。
「いや~、留守の間いろいろあったんですよ? 魔王がいないなら選挙だ、ってノリになって」
「勝手に選挙するな!!」
「代行魔王決定戦・卓球トーナメントでルシフェッタさんが優勝して、今こうなってます」
「何そのザコッぷりしか伝わらない決め方!」
「いやいや、ラリー60回超えましたし」
「すごいのか、それは……?」
ディオクレスはこめかみを押さえた。温泉で癒したはずの眉間が、再び深くしわ寄る。
「というか、お前、俺のマントにまで刺繍入れてるな?」
「あ、はい。自費で。裏地に“代行魔王爆誕”って金文字も入ってます」
「返せ! それ俺のお気に入りのマントだ!」
「嫌です! もう肩の形が私に馴染んでます!」
「理屈がめちゃくちゃ!」
◆
その後、互いに引かず睨み合うディオクレスとルシフェッタの間で、何が起こるか誰もが察していた。
「――勝負だな」
「受けて立ちます」
「今度はまともな形で決着をつける」
「ええ、魔王の名を懸けて、です」
「魔力での決闘か? それとも頭脳戦か?」
「いえ……」
「……いえ?」
二人が同時に呟いた。
「玉入れで勝負だ」
「「なんでだよ!!!」」
(まわりの全員が突っ込んだ)
◆
その日、魔王城の中庭には、急遽建てられた巨大玉入れタワーが出現した。
審判はスライム長老。実況はなぜか勇者ユウト(もはや空気)。
「ディオクレスチーム、準備はいいかー!」
「よし、角の艶は戻った。万全だ」
「ルシフェッタチーム、いけるかー!」
「完璧です。左手に自信あり!」
制限時間は10分。玉の数は無制限。頭上のカゴに多く入れた方が勝ち。
「それではいくぞーーーッ! レディーッ、ゴーーーッ!!」
◆
白熱する玉入れ合戦。
「このっ、このっ、このぉぉぉぉッ!!」
魔王ディオクレス、全身魔力強化。玉の速度が時速180キロを超える。
「当たったら死ぬわ!!」
「容赦はしないッ!」
一方ルシフェッタ、なんと三重魔法陣で軌道誘導というズル……もとい精密操作を行い、玉を百発百中でカゴに放り込んでいく。
「くっ……こっちは力技、あっちは技術だと!?」
「この勝負、私の頭脳の勝ちですね。魔王にふさわしいのはこの私!」
「ふざけるなあああああああッ!!」
そのとき、熱中するあまり、ディオクレスが跳躍して放った必殺・魔力玉が――
玉入れタワーの支柱に直撃。
「……あ」
という間に、タワーが傾き――轟音とともに崩壊。
舞い散る玉。崩れる支柱。倒れるスライム長老。
「……どちらの勝ちというより、両者失格でよくない?」
勇者ユウトの一言で、その日の勝負はノーコンテストとなった。
◆
「……っていうか、マント返してくれ」
「やだ」
「まだ言うか。じゃあ次は“魔王サイン選手権”だ!」
「受けて立ちます。“代行魔王サイン”、この日のために練習してました!」
「じゃあ3秒以内で書き終えるルールな!」
「そ、それは不利じゃ……!」
「勝負は非情ッ!」
こうして、魔王ディオクレスと代行魔王ルシフェッタの戦いは、またひとつ新たな局面を迎えた。
城の平和は、今日も遠い。
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