四日目「旅館再建と、板前と、炎上案件」
――旅館『紅蓮の湯』、壊滅。
……という非常にシンプルかつ絶望的な状況を生み出してしまった俺たちは、現在、絶賛修復作業中である。
「サトウ、次の柱、運ぶぞ!」
「ちょ、待って魔王様、俺これ三本目なんだけど!」
「ふむ、鍛錬には丁度良い」
「俺は筋トレしに来たんじゃねぇ!」
と、ツッコミを入れながらも手は動かす。俺と魔王が柱を担ぎ、勇者ユウとカインが大工魔法で基礎を整備、リリィが屋根を修繕。
勇者一行と魔王が一つの建物を協力して建てるという、世界的に見ても前代未聞の光景が広がっていた。
「……しかし、本当に変な光景だな」
屋根の上からリリィがぽつり。
「かつて戦場で睨み合ってた魔王と勇者が、今や旅館の棟梁だもんね」
「しかも一週間限定勤務の約束付きでな」
魔王ディオクレスはトンカチを片手に、まるで人生を楽しんでいるかのような微笑を浮かべた。
「だが意外と、悪くない。こういう“日々の創造”というやつも」
「創造って言い方だけカッコつけてるけど、大工仕事だからね?」
「うむ。**創造神業(DIY)**である」
「勝手に必殺技化するな!!」
◇ ◇ ◇
とはいえ、工事ばかりしていても腹は減る。
「今日は俺がまかないを作ろう。任せてくれ」
そう名乗りを上げたのは、意外にも賢者カインだった。
「え、カインって料理できんの?」
「できる。というか俺、元々王都の調理学校を中退して冒険者になった口だからな」
「中退理由の方が気になるな?」
そして出来上がったのは――
「究極! 魔導出汁ラーメン(雷)!!」
「出汁がビリビリしてるー!?」
しかもラーメンが雷エフェクトつきという、なにかのアトラクションのような料理。
「……うむ、美味である」
「ディオクレスお前それ、舌痺れてない? 火吹いてない?」
「問題ない。我が魔王、辛さに強し」
言いながら後ろでコッソリ氷水飲んでるのバレてるぞ。
◇ ◇ ◇
そんな和気あいあい(?)とした再建作業の日々も、三日が過ぎたある日。
突如として、旅館の前に怒声が響いた。
「おい貴様らァァァァ!! そこに魔王がいるって本当かァ!!?」
現れたのは、炎髪の聖騎士・グラヴァン。帝国でも名の知れた“筋肉聖騎団”の副団長だ。
「貴様ァ! かつて七つの都市を焼いた大魔王、何を人里で遊んでやがるッ!!」
「お主、名乗りもせず怒鳴り込むとは、客ではないな?」
魔王が湯桶を片手に応対。なんかもう、常に湯桶が装備状態になってるなこいつ。
「俺の名を知らぬとは貴様ァァァァ!! この“赤熱の拳”グラヴァン、今日こそ魔王の首をもらい受ける!!」
バッ!!
上着を脱ぎ捨て、露わになったのはムキムキの筋肉。汗に濡れた大胸筋が光り輝く。
「いや暑苦しいな!? ここ温泉地だぞ!? 湯気と汗が混ざってもう視界が地獄だぞ!?」
「ふふ、俺の筋肉を見たら誰もがひれ伏すッ!!」
「誰かこいつ止めてえええ!!」
◇ ◇ ◇
「仕方ない……応戦する」
魔王ディオクレスが、温泉用スリッパを脱ぎ捨て、戦闘モードに入る。
「待てディオクレス! ここは旅館だ! 壊れたばっかなんだぞ!?」
「そうか……ではこうしよう」
ディオクレスが指を鳴らすと、**「筋肉バトル専用フィールド」**が魔法で設置された。
温泉の隣に、いつの間にか特設リング(畳製)が出現している。
「これで安心だ」
「いや絶対安心じゃないって!!」
だが止まらぬ筋肉の応酬。筋肉VS魔王の世紀の対決が、いま開幕――!
「うおおおおおおお!!!」
グラヴァンの拳が唸り、魔王のタオルが翻る!
「フン!」
ディオクレス、湯桶で受け止めて反撃!
――そして。
「……あっ」
グシャアアアア!!
特設リング、崩壊。
温泉の端がえぐれ、またもや宿が部分崩壊する音が響き渡った。
「ちょっとおおおおお!? また壊してんじゃん!!!」
◇ ◇ ◇
そして数時間後。
旅館の主・おかみ(見た目18歳、実年齢200歳)が腕を組み、全員を正座させていた。
「……何度も言うけど、ここは旅館です。格闘場でも修学旅行施設でもありません」
「返す言葉もありません」
勇者と魔王、全員で土下座。
グラヴァンに至っては「筋肉で謝罪!」とか意味不明なポーズを決めてる始末。
「……もう一回だけチャンスをあげましょう。でも、次壊したら――」
おかみが指をパチンと鳴らすと、床下から巨大な釘バットがせり上がってきた。
「この“女将スペシャル(物理)”が飛びます」
「わかりましたァァァ!!!!!」
こうして、波乱と筋肉と反省に満ちた旅館再建の第4日が、なんとか終わったのだった――。
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