交換告白が実るまでpart.9 最後の推理レシピ

 これは早急に読み解けと急かされている気もしている。

 何故なら、暗号で送られてきているから。


「な、何でこんなレシピなんて送って来てるのよ! ふざけてる場合じゃないから、普通に場所とか送って来なさいよっ!」


 菜月さんが叫ぶも、すぐに僕が応答する。


「……ふざけてないから、こんな状況なんだよ!」


 すぐハッとした彼女が僕をまじまじと見つめてくる。

 彼女が冷静になっていく中、僕の心情が焦り始める。それでも。


「どういうことなの?」

「誰かに見られたら、助けを求めてることがバレちゃう。そしたら、バレたらいけない誰かが自分に危害を加えてくるかもしれない……」

「誰かがアイツを監禁してるってことなの……!?」

「ああ。だからこそ、僕達で通じる暗号にしたんだよ……」


 そこに秋風さんがポツリ心配事を口にする。そんな彼女は本当に病気かのように顔を青くして震えている。


「……ほ、本当なの? と言うか、それって礼太郎くん大丈夫なの!? こっちにメールを送ってるってことこそ、犯人の逆鱗に触れない?」


 本当はそれで痛い目に遭っている可能性も頭の中に何度も過っていた。あまりにも嫌な想像だ。

 但し、今の彼女を不安にさせるようなことは言えない。無事だった時のことを考えるのだ。


「いや……! もしかしたら、連絡を取らないと心配されるとかって言って、メールだけは送らせてもらっているかもしれないし。何とか口八丁で誤魔化してるはず……アイツのことだから」

「そ、そうなんだね……」


 秋風さんは少しだけ安心したように眉を上げた。まだ油断は許されないが。気を張りすぎ続けていてもだめだ。心がすり減って大事な時に動けなくなってしまうから。

 雪平、いや、友継の方は静かに思考の中にいる。やはり無表情だから何を考えているのかは分かりづらいが。彼もまたきっと、礼太郎達の身を案じているのだろう。


「で、結局、このレシピって何を意味してるの?」


 菜月さんの疑問に僕は答えられない。一体、何を指し示しているのか。


「……春雨くん、いつものように看破しちゃってよ!」


 秋風さんの言葉があるもこれはどうにもできない。デンプンを使って何をするのか。30とは、あまりにも少なすぎないか。

 スープに混ぜて食べるもの、だとは分かるが。何を意味しているのか。

 昨日話したことに何が含まれているか、全く分からない。ただのカモフラージュなのか。それとも。

 ただ、今の言葉で友継が振り向いた。


「……春雨だな」

「友継まで僕のことを」

「いや、そういうものじゃなくて……春雨の作り方だ。デンプンと水を合わせて……冷やして固めるって言うのならな……ただ、分からないのは五等分ってところだな……」

「何で?」

「だって春雨って言うのは細いだろ。五等分なんかで細くなると……思うか?」

「そっか。デンプンと水を合わせて、それを広げたら……」

「それにデンプンの量も少ないし……変だな」


 春雨。何で、と思ったが。何となくわかった。

 僕に何か伝えようとしているのだろうか。

 五等分。後、30との少量。この数字を合わせると、305、いや、5と30で考えた方が良いのだろうか。

 今、彼が伝えたいことは何だろう。

 場所。場所だけだろうか。


「5と30……」


 僕がぼやいたところ、秋風さんが案を出してくれた。


「時間っぽくない? 五時半って」


 そこに菜月さんも考える。


「でも、何の時間? 今も礼太郎は捕まってるんじゃなくって?」

「そう……そこなんだけど……」


 時間を指定する理由。

 その時に来てくれると、事件が解決するとのことか。その意味を考えるに、よく分かる。


「……犯人が現れる時間か、証拠が分かる時間か、のどちらかだろうね。五時半にその場所へ行けば、いいってことなんだね」

「その場所って言うのが……? 何処?」

「……うん、それなんだけど。僕のこと……僕のこと、僕の家に五時半集合じゃ、変だよね」

「うん、君が犯人じゃない限り」


 僕は思い切り首を横に振る。今ここで僕を睨んでいる菜月さんよ、秋風さんの言ったことを真に受けないでくれたまえ。

 友継はすぐ一息吐いてから、サポートしてくれた。


「昨日の話を思い出して、だろ? もしかするとだが……」


 昨日していた、僕に関する場所。あった気がする。


「そっか……僕の近くにある幽霊屋敷のこと、だね。あそこなら、空き家だから誰もいないだろうし……あそこなら……」

「じゃあ、今日の五時半、そこに集合ってことだね」


 秋風さんは拳に力を入れて気合を入れてみせる。たぶん、五時半と書いてある。午後か午前かは分からないが。

 夕方の可能性ではなかろうか。


「……でも、ちょっと暇な人に救援頼んでみる」


 菜月さんは誰かに電話をしている。話し相手的には大学生の兄で、家にいるらしい。だからか、そこから幽霊屋敷について尋ねるよう伝える。

 本当にそこか、と。

 ただその答えとしては、屋敷はあるが鍵が掛かっている。ドアも頑丈だとのこと。

 それを聞いた友継が発言した。


「なるほど……五時半にならないと解放されないって訳だな」


 菜月さんはスマートフォンを見つつ一つの判断を。


「今、警察を呼んでも人質に酷いことされるかもって話だろうし……チャンスを待つしかないわね……」


 やることは決まった。

 そこできっちり証拠を掴むしかないのだ。助けないと、だ。

 待つしかないというのはかなりじれったい。ただ、その中で犯人は誰だと考えて、思考を進めていく。

 推理。

 犯人は誰か。

 アイツしかいない。礼太郎はA先輩が気になって、尾行したのではないか。

 あの人、仕送りとか言っていたけれども。それも尽きそうだと。それでいて、夕飯はこの学園喫茶を利用するなどお金が有り余りすぎている。

 部活を掛け持ちでやっているようだから、バイトする時間もなかなかないはずだ。

 それなのに。デートや食事を楽しんでいる始末。


「……何でお金を、か……」


 確実なものではない。

 ただ不確実だからだ。推理がこれ以上できないからこそ、礼太郎は調べようと思ってしまったのではないか。

 そこでトラブルにあった。

 まだ彼が犯人だと断定できないが、可能性はある。そう考えて僕は刻刻と迫る、問題の時刻をただただ授業を待っていく。

 僕も秋風さんも授業なんて身に入ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る