交換告白が実るまでpart.8 行方不明
どうやら栗実さんは昨日、交換告白について再度話したいと内嶺先輩、矢継先輩の両方に連絡を試みたらしい。
だけれども、内嶺先輩からしか連絡はなく。ついでに交換告白なんかよりも、矢継先輩の行方が優先だと言われて困惑したらしい。
「わたしが変えちゃったんですよ。矢継先輩を! こんな提案をしたから、矢継先輩は……あの人はどっかに走って行っちゃったんだっ!」
夜遊びをして、何処かに消えたか。
A先輩も連絡が取れないとなると、学園喫茶で飯を食べた後に一緒に遊びに行った、と。
A先輩は今から何処かに遊びに行こうなどとは一言も話していなかったのだが。
考えている間に栗実さんの様子が目に入った。震え、自身の行動を心から悔いている。まだクラスメイトは少ないから、目立つこともなく。
その中に秋風さんだけがスッと。まるで本物の風のように突然、現れた。
「ほ、本当なの? どうしちゃったの……?」
「わ、分からないよ……今まではそんなことしない人なのに。チャットも既読なんてしない人なのに……何かあったのか……全部全部、わたしのせいだっ!」
後悔で真っ黒になりそうな彼女。あまりにも見ていられない。こんな悲しい姿を。外の曇り空がついに雨となる。
「……ダメだよ。自分を責めちゃ。交換交際を提案したのは君だろうけれどもさ。でもさ、好きになったのは本人じゃないか。恋愛で変わったのは本人。諦めない、諦めるも全て本人の判断なんだよ? 選択なんだよ? それを選んだ人がどうにかしなくちゃいけない問題だ。変わったのは君のせいなんかじゃない!」
「……レインくん?」
「君は君自身を責めちゃいけないんだよっ! そんなことする位ならさ、後でひょっこり二人が連絡取れないの何で! って説教のセリフを考えておこっ! 君がやるべきことはそれ位でいいと思う……」
一瞬、辺りの空気が静かになる。やってきたクラスメイトも何事かと注目し始めていく。
ただそこでパッと暗くなった教室の照明が明るくなる。
栗実さんも少しだけ。目に涙を浮かべているのは変わらないが。それでも明るく振る舞っていた。
「その通りだよね……その通りで、間違いがない。分かったよ。ちゃんと怒れるようにしておくから!」
それで良し、だ。
僕がやれることはそれだけで十分なのか。これ以上やれることはないだろうか。ただただ時間が待つだけ。
本当は連絡が取れなくていつもみたいに普通に学校にやってくる。その情景を期待してはいる。ただ、現状況を考えるに男女の関係で一夜消えてしまう、そのこと自体が大問題だ。
これから見つかったとて、どんな問題になるかは分からない。
校則で厳しく罰されるかもしれないし。矢継先輩の運命がどうなっていくのか。それはもう、分からない。
きっと、そのことも不安で不安で仕方がなくて、栗実さんも、だ。
少し似たような雰囲気でスマートフォンを見つめている人がいることにも気付いた。
「……どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
秋風さんだ。彼女も何か気になっているのかと思ったが、何も口にはせず。
実際に嫌な予感がしたのは、朝のホームルームが終わった後だった。
菜月さんがやってくる。
「あいつ……何処で何やってるのかしら」
「えっ? やっぱ、そっちにもいないの?」
秋風さんと廊下で話している声がこちらにも届いてきた。何やら、本当に何か起きているのかと思ってしまって。
無意識にも廊下まで飛び出していた。
「菜月さん……何かあったの?」
何だか重い表情。菜月さんが先に秋風さんを見やって。彼女が自分が言うね、と話してくれた。
「さっきは心配掛けたくなくて。ただ電話壊してるだけかなって思うんだけど……礼太郎もそう。礼太郎に関しても昨日の夜から連絡が取れてないの……まぁ、どっかで携帯を壊してるんだと思うけどね……」
「壊してることは確定なんだ……」
「うん」
でも連絡が取れないのは心配で心配でどうしようもない。
学校を無断欠席をするということに関して。礼太郎についても初めてで。その話に声を掛けてきたのが、一人の先輩だった。
その顔は、栗実さんに見せてもらったものそのもの。
内嶺さんだ。
「行方が分からないって……」
秋風さんが少し考えて、喋ってみせる。
「どうやらそっちもそっちで同じことが起きてるんですね。これはちょっと関連性があるって考えて良さそうですよ」
つまるところ、どうにもこうにも僕達で何とかするしかない。
礼太郎の行方が分からないことに関しては。リーダーを提案している身としては、絶対に見捨ててもおけないし。
無断欠席が関係しているとなれば、必ず矢継先輩達の行方も分かるはず。
これからの授業に関してはどうすればよいのか。
「取り敢えず、私はお腹が痛いってことで」
「僕は風邪気味でベッドで寝てるってことで」
「あたしは熱中症」
「自分は……怪我で……って言っても、嘘の怪我だがな……」
僕達学園喫茶のメンバーは授業中にも関わらず保健室に集まっていた。カーテンの中で遮られているから、寝ていると思われている。
これがサボりだとバレたらと思うと、怖すぎる。今後一切学園喫茶を許してもらえなくなるのではないか、とすら思えてきてしまうのだが。
でも一大事。
僕達が動くしかないのだ。
僕と秋風さんの欠席は栗実さんに話を通してある。一応誤魔化せるようにはなっている。
それでも罪悪感を覚える。もしこれで礼太郎がピンピンしていたら、後でしばく他ないだろう。
まずは僕の方で話をまとめさせてもらう。
「たぶんの予想になるんだけどさ。礼太郎のやりそうなことって……A先輩と矢継先輩を追ったんじゃないかな? 好奇心か何かは分からないけどさ……その中でトラブルに巻き込まれたとか……」
彼の好奇心に関しては三人共異議を出さなかった。どうやら、彼がそこまで平気で野蛮なことをするというのは共通認識のようで。
その上で何処に行ったかが重要な問題なのだけれども。
秋風さんのスマートフォンにピコリと着信が入った。
先程栗実さんと連絡のやり取りをしていたようだが。まさか。
「せ、先生にバレた?」
「ううん……さっきあの子の携帯にこんなメッセージが飛んで来てたんだけど」
それは矢継先輩から栗実さん宛てのチャット。
そこにはこう書かれていた。
『デンプン 30G
水と一緒に混ぜた後、冷蔵庫に冷やして、固まったら5等分に切っておく。
スープと混ぜても美味しいぞ。
昨日話したことを忘れるな』
一見、レシピに見える。こちら。たぶん栗実さんからしたら、ちんぷんかんぷんなものなのだろう。
だけれども、僕達は知っている。礼太郎の推理レシピだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます